【0108】民間出身国税審判官の或る日の日記(その10)

1.平成26年〇月〇日

参加審判官をしているA事件の請求人面談があった。
請求人本人は調査手法についての不満があるらしく、事前にそれについての主張書面も届いていたので、冒頭にある程度思いのだけを発言させてから入るしかない感じである。
参加審判官(事件主担者)から説明を受けた当日のシナリオを改めて確認するが、少なくとも代理人税理士が、aという主張とbという主張の違いを理解してくれるかどうかがポイントとなる。

(補足)

課税要件に直接関係がない主張は最終的には(裁決書には)取り上げないというのが国税不服審判所としての基本的な姿勢だと思います。
しかし、審判所は同時に権利救済機関でもあり、同じ税務行政の前工程であった税務調査上のトラブルの責任が全くないわけでもないでしょう(国税不服審判所は「税務行政の良心」とおっしゃる方もいます)から、たとえ課税要件に直接関係がなくても、背景事情として伺う姿勢は見せるべきだと思います。
「最初にガス抜きをしてもらった方が、その後に冷静にお話いただける」という請求人面談を円滑に進めるための戦術面の要請も大きいのですが・・・。
審判官によっては請求人面談に先立って何らかのシナリオ(進行要領)を作成して、合議体内で事前に打ち合わせしているケースが多いものと思われますが、これは、「面談時に必ずお伝えすべき(お聞きすべき)ことを漏らさないようにするため」「書面に取りまとめる時間の短縮のために想定される回答を事前に入力して適宜修正する」などの目的があります。

 

2.面談の実際

開始予定時刻の10時になっても請求人本人・税理士代理人が来ないのでどうしたのかなあと思っていたら請求人本人がドタキャンで代理人税理士ひとりだった。
ということは、質問事項の聴取をすることができず、求釈明事項の回答を得るのみということになったが、代理人税理士がこちらの質問に対してグラグラ主張を変えることから、結局どうまとめて良いかわからず、「もうこちらの想定通りの文面で署名押印をしてもらおうか。」ということになった。
どうやら、原処分庁からの答弁書やそれに対する請求人側の反論書の理解もいまいちであるらしい。
合議体もさることながら、審査官が呆れているのが印象的だった。
国税不服審判所に来て、代理人税理士のふがいなさを感じているが、争訟という点においては、税理士はまだまだ力不足ということなのかな・・・。
事件主担者が、昼食を食べた後に2人で歩いていて「ここを卒業した後、審査請求専門で業務を受けたらビジネスチャンスがあるのでは?」と言っていたが、本当にそうかもしれない。
経験者が代理人になる方が審判所との間のやり取りもスムーズなのだろうし。
税理士は主張が対立するのがダメだと考えがちだが、審判所の舞台に来た以上は、むしろ同じ争点に対する主張が双方対立するのがあるべき姿なので、そういった立論をきちんとしてくれる代理人の方が審判所としてはありがたく、そういう点では税理士よりも弁護士の方が良いのだろう。

(補足)
証拠収集のための質問事項は、経験した当事者ご本人に回答していただかなければ証拠力が期待できません(代理人が回答しても「伝聞」になります)。代理人税理士は、こちらの「aという主張でよろしいでしょうか。」の問いに「そうです。」と回答し、「一方、審査請求書・反論書に照らせば、bという主張の構築も可能だと思いますが。」と問うと「やっぱりbです。」と回答するなど、結局どちらの主張なのかが明確になりませんでした
交渉の余地のある税務調査の段階を過ぎ、税務争訟というガチンコ勝負の段階に至った時の税理士の不慣れさを実感しました。

 

3.起案の力量の差

総括審判官がB事件の議決書案をしこしこ作っている。
これをそのままコピー&ペーストして「できました!」というのも何だし、そうはいっても総括審判官が自ら起案した議決書案に別の視座を与えることができる能力が自分には備わっていない。

(補足)

その総括審判官(59歳)は、その時点で国税不服審判所の在勤が7年目のベテランであり、調査経験も豊富で、大阪審判所から発出された自分が関与していない裁決を自主的に勉強しているような方でした。
それに対して、私は大学院で税務争訟を学んだこともなければ、ましてや民事判決の起案の訓練など受けたことがなく、その総括審判官の前では赤子も同然でした。
しかし、その方は、私を公認会計士・税理士という専門家として尊重しながら接遇していただき、その恐懼(自分の不甲斐なさ)に耐える毎日でした。

 

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