1.国税不服審判所とは
国税不服審判所は、昭和24年のシャウプ勧告に基づき、課税処分に対する納税者の不服に対し、税務署等の執行機関とは別の第三者的、客観的立場で公平に審理に当たる国税庁の附属機関(現在は「特別の機関」)です。
国税不服審判所の使命は、税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、「納税者の正当な権利利益の救済を図る」とともに、「税務行政の適正な運営の確保に資すること」にありますが、そのためには、当事者である審査請求人その他の利害関係者に認知・信頼される必要があります。
国税不服審判所は、利害関係者による時代の要請に対応するべく、裁決事例の公表や国税審判官の外部登用など、各種の新たな施策を実施しています。
2.裁決事例の公表
行政不服審査は公開を法定している一部のものを除き非公開とされており、国税不服審判所の裁決についても、昭和43年の税制調査会答申において原則として非公開とされていることから、審査請求人もこれを前提として審査請求を活用されていると思われます。
しかし、上記答申において、先例となる裁決については公開することを考慮するとされたことや、平成12年の総務省行政監察において公表事例を拡充する余地があるとされたことを踏まえ、先例となるような裁決について、固有名詞を匿名にするなど、審査請求人等の秘密保持に配意した上で、昭和46年から「裁決事例集」という冊子を年2回発行して、一部の裁決が公表されていました。
そして、平成14年からは平成4年分以降の裁決書が国税不服審判所ホームページに掲載されています。
現在では、参考判例が付記されるなど、公表裁決事例により有用性を持たせるなどの改善が図られており、年4回(3月・6月・9月・12月)の頻度で公表裁決事例がホームページに掲載されています。
3.国税審判官の外部登用の初期
国税審判官の外部登用が平成19年から本格的に始まりました。
国税審判官の資格は、国税通則法施行令31条の規定により、弁護士、税理士、公認会計士などの民間専門家にも認められていましたが、昭和45年の国税不服審判所の発足の時点で、条件を満たす人を外部から集めることは事実上不可能であり、ゆくゆくは民間出身者を採用していくが、当面は部内の職員を充てていくといった形でスタートされたようです。
その後、平成12年には、「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律」が制定され、国税不服審判所としても、経済取引の国際化、広域化から複雑・困難な事件が増加する中で、民間専門家の専門的知識、ノウハウを活用することが有効であるとの考え方の下に、平成19年7月から任期付審判官の採用が開始されました。
4.税制改正大綱による拡大要請
初年度は4名採用し、その後、人数が漸増していましたが、平成23年度税制改正大綱(平成22年12月)において、「審理の中立性・公正性を向上させる観点から、今後、国税審判官への外部登用を民間からの公募により年15名程度採用する。3年後の平成25年までに50名程度を民間から任用することにより事件を担当する審判官の半数程度を外部登用者とするといった形で拡大すること、そして、その方針と工程表を公表すること」が明記されました。
平成25年以降は、担当審判官の半数程度がこうした民間専門家からの登用となっており、原則として、合議体ごとに最低1名が配置されています。
近年は、平成30年に16名、令和元年に15名、令和2年に16名採用され、令和2年10月現在で50名の任期付審判官が在籍しています。
5.任期付審判官採用の効果
現在、国税不服審判所の各支部において、高度な専門的知識や様々な経験を有する民間専門家がそれぞれの知識・経験を活かして、日々多角的な検討や議論を積み重ね、充実した合議に向け尽力し、その結果として議論が活性化していることに加え、審理の公平性の確保の観点からも一定の評価がされています。
また、民間専門家の立場からしても、バックグラウンドが異なる専門家と国税職員が同じ目標に向かって仕事をする職場は国税組織としては稀であり、それぞれの税法について数十年の経験を持つ国税出身の職員や他の資格出身の特定任期付職員と机を並べて議論を交わすことで新たな知見を得て、それを退官後の自身のキャリアに活かしている者が多いようです。
6.審理の状況予定表
国税不服審判所は、平成23年4月に審判の透明性を確保するための各種施策を導入しました。
この施策は、審査請求人等に対して、審査請求における各種の手続や審理の状況・予定など、事件に係る具体的な情報を適切に提供することによち、審判の透明性を高め、より国民の理解しやすい審判を実現し、もって国税不服審判所への信頼の確保を図ることを目的としています。
1つ目の施策は「審理の状況・予定表」の交付であり、担当審判官が、審査請求人と連絡又は面談後、審理の状況に応じて、適時に、審査請求手続の進行状況等を知らせるために行うものです。
これには、答弁書などの書類の提出状況や、その時点での争点、調査・審理の状況、今後の予定などを記載しています。
7.争点の確認表
2つ目の施策は「争点の確認表」の交付であり、担当審判官が、当事者双方の主張を的確に把握し整理できているか、また、当事者双方が争点を共通して認識しているかを確認するために、当事者双方に送付するものです。
これには、「争われている原処分」「争点」「争点に対する当事者双方の主張」などを整理して記載しており、これが裁決書のベースとなります。
8.同席主張説明
3つ目の施策は「同席主張説明」の実施であり、担当審判官が、当事者双方同席の場でそれぞれの主張を再確認して争点を明確にすることによって、国税不服審判所、審査請求人、原処分庁の三者間で、事件に関する理解を共通にして、円滑な審理に役立てることを目的として行う施策です。
9.その外の施策
これらのほかにも、審査請求書の提出時にリーフレットやパンフレット「審査請求良くある質問Q&A」を交付し、初回面談時に担当審判官がそのリーフレット等を用いて審査請求手続について説明を行ったり、事件の担当者が決まったら、その旨を当事者双方に対して「担当者連絡表」を送付して通知し、初回面談時に担当者を紹介したりするなどといった取組が行われていますが、いずれも審判の透明性の確保の観点から、平成23年4月に開始したものです。
10.ICTの利活用
e-Tax(国税電子申告・納税システム)は、納税者の利便の向上に資する取組として、平成16年に運用が開始されましたが、審査請求書の提出をはじめとした不服申立手続においても、確定申告手続と同様にe-Taxを利用することができるのはご存じでしょうか。
市販のe-Tax対応の会計ソフトは、確定申告書の作成には対応しているようですが、審査請求書の作成には対応しておらず、国税庁のe-Taxホームページから無料でダウンロードできるe-Taxソフトを利用すれば、e-Taxによる審査請求が可能です。
また、国税不服審判所の審判部内の会議、研修、合議等については、令和元年8月より積極的にWeb会議システムが活用されています。
また、令和2年度税制改正により、令和3年1月1日以後にされる審査請求から、Web会議システムを利用して口頭意見陳述を実施することができるようになりましたが、調査審理を担当している国税不服審判所の支部から離れた場所に審査請求人が所在している場合、最寄りの支部に来所してWeb会議システムで口頭意見陳述に参加できるようなりましたので、審査請求人が遠方から来所するための時間や交通費の負担が軽減されることになります。