1.職権調査権限の規定
国税通則法第97条第1項は、審査請求の実体審理に当たり、担当審判官は、審理を行うため必要があるときは、審理関係人の申立てにより、又は職権で、
❶ 審査請求人等若しくは原処分庁又は関係人その他の参考人に対する質問
❷ 帳簿書類等の所有者等に対し、相当の期間を定めてする提出要求又は提出物件の留置き
❸ 帳簿書類等の検査
❹ 鑑定
の行為をすることができる旨を規定していますが、注目すべきは、担当審判官の職権のみならず、審理関係人、すなわち、審査請求人や原処分庁の申立てによって行われることが予定されていることです。
2.審理関係人の申立権
担当審判官が行う質問、検査は、職権によりその必要性から自ら進んで行う場合と、審査請求人若しくは参加人又は原処分庁の申立てにより行う場合とに分けられますが、この申立てがされた場合においても、担当審判官は、審理に必要がないと認めるときは、その申立てを採用しないことになります。
本条の調査権の行使は、担当審判官が審理を行うために必要があるときに行われるものであって、審査請求人等から申立てがあった場合に、必ずこの調査権を行使しなければならない旨を定めたものではありません。
すなわち、本条は、審査請求人等に調査の請求権があることを規定したものではなく、審理に当たって必要な調査等の要否、方法等についての判断は、担当審判官の合理的裁量に委ねられるものであり、したがつて、審査請求人等からこの条の申立てがあっても、それは、単に担当審判官の職権発動を促すものに過ぎないものとされています。
もっとも、担当審判官は、その申立てに対する判断を示すものとされています。
3.自己に有利な証拠を掘り起こさせる
たとえ、職権調査の申立権が担当審判官の職権発動を促すものに過ぎず、担当審判官はその申立てどおりの調査をする義務を負わないにせよ、審理関係人、とりわけ不利益処分の取消しを求める立場である審査請求人にとってみれば、担当審判官による職権調査権限の行使を促すことによって自己に有利な証拠を掘り起こさせる可能性がある局面であり、申立ての制度については積極的に活用したいところです。
また、国税不服審判所ホームページには、この職権調査の申立てに関する様式も用意されていますので、自己の主張を裏付けることになるものの、民間人である審査請求人の立場では収集が困難な証拠については、申立てをしてみる価値はあります。
併せて、原処分庁が自己に有利な証拠のみを掻い摘んで採用しているような場合には、原処分庁がした調査内容につき、担当審判官が改めて調査するよう申し立てる場面で利用することもできます。
4.職権調査の申立ては活用されていない
私が国税審判官であった当時の国税通則法第97条の規定は、「審理関係人の申立て」ではなく「審査請求人の申立て」であり、審査請求人のみに認められていました。
しかし、審査請求人が職権調査の申立てを行ったケースは、少なくとも私が関与した範囲では皆無であり、
・審査請求人又は代理人は、権利救済のために自己にどういった権利が認められているのかをもっと研究すべきではないか?
・審査請求書さえ提出すれば、後は担当審判官が手取り足取り教えてくれて、自己に有利な証拠を勝手に収集してくれると思っているのだろうか?
という疑問を税理士出身者として感じていました。
権利救済を求める審査請求人としては、判断権者である担当審判官を自己に有利なようにコントロールすることはできないものの、少なくとも、自己に有利な証拠が何で、そのためにはどこにどういった職権調査を促せば良いのかについてあらかじめ検討した上で、それを担当審判官に認識させる(気づかせる)という積極的な主張立証活動を展開すべきでしょう。