1.取下げの取扱い
不服申立人は、いつでも不服申立てを取り下げることができます。
ただし、既に決定又は裁決があったときは、その不服申立てはその決定又は裁決により終結し、もはや取り下げることはできません。
不服申立ての取下げとは、不服申立人の行為により、始めから不服申立てがなかった状態に戻すことです。
すなわち、一旦適法に不服申立てが取り下げられれば、その不服申立ては遡及的に消滅して当初から不存在となり、その後、その取下げの撤回を申し出ても、もはや撤回の対象は存在せず、したがって、取下げの撤回は許されないので、慎重に判断しなければなりません。
したがって、不服申立ての取下げは、その事績を明確にして後日の紛争を避けるため、書面でしなければならないのです。
不服申立てを取り下げることのできる者は、不服申立人本人及び取下げについて特別の委任を受けた代理人に限られ、総代及び取下げの委任を受けていない代理人はこれをすることができません。
また、代理人が不服申立ての取下げをするときは、本人の特別の委任があることを書面で証明しなければなりません。
なお、不服申立期間経過後に不服申立てが取り下げられたときは、処分は取下げによって確定します。
2.不服申立てのみなす取下げ
再調査の請求後3か月を経過し、再調査決定を経ないで審査請求がされた場合には、その再調査の請求は取り下げられたものとみなされます。
これは、仮に再調査の請求をそのまま係属させれば、審査請求と重複して審理が進められることとなり、争訟経済に反するばかりでなく、もし、税務行政部内で相互に矛盾した裁決等が出されれば、混乱をきたすからです。
ただし、郵便又は信書便による送付期間等の関係で再調査の請求の全部又は一部を認容する再調査決定書の謄本が発せられた後に審査請求がされたときは、全部取消しの場合にあってはその審査請求が、一部取消しの場合にあってはその取り消された部分の審査請求が取り下げられたものとみなされるという取扱いになります。
これは、再調査の請求人は、その申立てが認められたことを知らないで、審査請求をしたことになりますが、このような審査請求は実益がなく無駄であることから、取り下げられたものとみなすことにしたのです。
しかし、再調査の請求人の主張が全く認められなかった場合においては、再調査の請求が取り下げられたものとみなすことにより、その後の審理を国税不服審判所においてすることになります。
したがって、その後に再調査の請求について決定を行ってもそれは無効であり、審査請求がそのような再調査決定によって遡って効力を失うものと解することはできないとされています。
3.原処分が喪失したことによる取下げ
国税不服審判所における審理経過の途中で、原処分庁がこのままでは取消しの裁決を得る可能性が高いと判断した場合には、減額更正処分を行うことにより、原処分庁自らがその不利益処分を無くする行為を行うことがあります。
これは、このまま審査請求が継続されて取消しの裁決書が発出されると、その裁決書は情報公開請求等によって公開され、特に税理士業界に大きな影響を与えるほか、その後の課税庁における調査の足枷になりかねないと考えるからだともいわれています。
いずれにせよ、減額更正処分によって原処分が存在しなくなった以上、審査請求人における請求の利益は喪失することになり、このまま審査請求を維持しても、いずれは国税不服審判所長による却下処分を受けることになります。
そこで、担当審判官は、上記のような今後の見込みを伝達することにより、審査請求を取下げるか否かについて審査請求人に判断を委ねることになります。
しかし、上記でみたように、取下げは今後争うことができなくなる効果があることから、担当審判官は慫慂するようなことはせず、情報を提供してあくまで審査請求人に判断させるように表現することになります。