【0139】不服申立てにおける件数カウントの妙

1.不服申立てにおける申立件数

納税者は、税務署(国税局)が行った課税処分や滞納処分に不服があるときは、処分の取消しを求めて不服を申し立てることができます。
この不服申立制度は納税者の正当な権利や利益を簡易かつ迅速に救済するための手続であり、処分に対して不服がある納税者は、裁判所に訴訟を提起する前にまずこの不服申立てを行うことを原則としています。
不服申立てには、税務署(国税局)に対する「再調査の請求」と、国税不服審判所長に対する「審査請求」があり、納税者はそのいずれかを選択して行うことができます。
また、再調査の請求を選択した場合でも、その再調査の請求についての決定後の処分になお不服があるときには審査請求を行うことができます。
再調査の請求については、令和2年度に1,000件発生し、999件を処理しています。
発生した1,000件の税目別の内訳は、申告所得税等が391件(39.1%)、源泉所得税等が22件(2.2%)、法人税等が210件(21.0%)、相続税等が45件(4.5%)、消費税等が300件(30.0%)、徴収関係が32件(3.2%)となっています。
また、処理した999件の内訳は、全部取消しが4件(0.4%)、一部取消しが96件(9.6%・全部取消しと併せて10.0%)、棄却が679件(67.9%)、却下が95件(9.5%)、取下げ等が125件(12.5%)となっています。
審査請求については、令和2年度に2,229件発生し、2,328件を処理しています。
発生した2,229件の税目別の内訳は、申告所得税等が754件(33.8%)、源泉所得税等が42件(1.9%)、法人税等が321件(14.4%)、相続税等が179件(8.0%)、消費税等が830件(37.2%)、登録免許税その他の税目が6件(0.3%)徴収関係が97件(4.4%)となっています。
また、処理した2,328件の内訳は、全部取消しが65件(2.8%)、一部取消しが168件(7.2%・全部取消しと併せて10.0%)、棄却が1,803件(77.4%)、却下が93件(4.0%)、取下げ等が199件(8.5%)となっています。

2.統計を見た者が抱く誤解

この統計は毎年6月中旬に国税庁が公表しますが、この数字だけを見た方は、さも以下のように思われるかもしれません。
・再調査の請求については、1,000人(社)の納税者が再調査の請求書を提出し、税務署(国税局)は999通の再調査決定書を発出した。
・審査請求については、2,229人(社)の納税者が審査請求書を提出し、国税不服審判所は2,328通の裁決書を発出した。
しかし、これは大きな誤解です。
上記の各件数は「納税者ベース」ではなく「処分件数ベース」です。
例えば、所得税の青色申告の承認を受けていた個人事業者が、税務調査によって税務署(国税局)から「青色申告の承認を取り消す処分」を受けて、その処分を取り消す旨の不服申立てをする場合には、納税者は1人ですし処分件数は1件とカウントします。
しかし、往々にして、1人(社)の納税者に対して複数の処分が行われる場合があり、上記の各件数はその処分件数ベースによるものです。

3.処分の単位

法人税や個人事業者の事業所得の税務調査は、1回に数年分(年度分)を対象に行われることが通常ですが、たとえ同じ論点に係る否認であっても、年分(事業年度)が異なればその年分(事業年度)を単位として更正処分がなされます
例えば、法人税における「使用人兼務役員に対する賞与」が調査対象の3事業年度にわたって発生しており、全ての事業年度のそれらを否認する場合には、同一の納税者であっても処分件数は3件とカウントします。
ちなみに、現在は、法人税の他に地方法人税という税目も存在していますが、追ってご説明するとおり税目別に処分がなされることから、実際の本件の処分件数は合計6件となります。
我が国の相続税は法定相続分課税方式を採用しており、更正処分によって課税価格が増加した相続人等が1人のみであっても、超過累進税率の適用によって相続税の総額が累積的に増加することにより、他の相続人等(例えば4人)の相続税額まで若干増加する仕組みとなっています。
このうち、課税価格が増加した相続人等のみならず、若干税額が増加した他の相続人等4人も含めて不服申立てすれば、1人の被相続人に係る相続税申告であっても、処分件数は5件とカウントします。
ちなみに、相続税額が増加した原因(不服申立ての理由)が同じであれば、その不服申立てについて「総代」を選任することで、「総代Aほか4名」というようにまとめて審理されることになり、再調査決定書又は審査請求書も1通のみ発出されることになります。
平成25年度から東日本大震災の復興財源に充てるための「復興特別所得税」「復興特別法人税」が創設されました。
このうち、復興特別法人税は2年間で廃止されましたが、その後、法人税の一部を切り出す形によって「地方法人税」が創設されました。
また、「消費税」は創設当初は国税のみでしたが、平成9年度の税率引き上げ時から「地方消費税」が創設されて現在に至ります。
これらの税目は、本税の税額を課税標準としており、本税の税額が決定されると自動的に算出される性質を有していますし、これは申告書が1枚に集約されていることからもわかります。
しかし、これらはあくまで本税とは別の税目であり、そうである以上、処分も本税と区分してなされます。
過少申告(無申告・不納付)加算税や重加算税といった各種の加算税についても、本税と区別して処分がなされます。
この点、過少申告(無申告・不納付)加算税について本税と併せて不服申立てがされる場合には、加算税の取消し可能性は本税が取り消されるか否かに依存することから、過少申告加算税単独としてはカウントせず、本税と併せてカウントします。

4.実際の事件数ベースは

例えば、平成24年分以前(復興特別所得税の創設前)の所得税・消費税等の各確定申告について、青色申告の承認が取り消され、併せて、7年分に遡りこれら各税目の更正処分を受け、更に重加算税の賦課決定処分を受けた個人事業者の場合の処分件数は以下のとおりとなります。
・青色申告の承認を取り消す処分 1件
・所得税 7件
・消費税 7件
・地方消費税 7件
・重加算税 (②+③+④)=21件 合計 ①+②+③+④+⑤=43件
この納税者がこれら処分の全てについて不服申立てをすれば、納税者は1人であるものの不服申立ては43件とカウントされますし、現在のような復興特別所得税の存在する年分であれば処分件数は更に増加していたことになります。
このように見ると、再調査の請求における再調査の請求書の提出件数及び再調査決定書の発出件数、審査請求における審査請求書の提出件数と裁決書の発出件数(すなわち実際の「事件数ベース」)は、公表されている処分件数ベースの数分の1程度であることが推察されます。
そして、毎年6月中旬に同じように国税庁から税務訴訟の発生状況・終結状況の統計が公表されますが、これは処分件数ベースではなく事件数ベースとなっており、一見すると不服申立てよりも極端に少ないように見えるところ、そもそもカウントのベースが異なっているために、そのまま比較することにあまり意味がないものとなっているのです。

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