【0146】民間出身国税審判官の或る日の日記(その30)

1.平成27年4月27日・28日

先週の金曜日、関東信越国税局の十日町税務署長が酪酎が原因で逮捕されたが、あと2か月程度で定年だったのに。副審判官が「アホでんな~」と言っていたが、あと2か月大人しくしていたら退職手当も満額入っただろうに。
十日町署は総員が20人くらいだそうが、総務に主任が1人いるだけで、調査官、事務官はおらずみんな上席調査官以上のようだ。
そんな大人ばっかりの人数の少ない組織で警察沙汰が起こったということか。

(補足)
公務員の不祥事は報道されやすいこともあり、同じ立場の税務職員の不祥事にはみんな敏感でした。
署長が酩酊状態で職員を説教して公務員宿舎で暴力を振るった事件だったと記憶していますが、税務職員の飲み会の頻度は外様職員(しかも飲めない私)からすると驚くくらいで、酩酊状態の事件は私の任官中でも結構ありました。

2.原処分庁に対する職権調査

A事件の原処分庁調査に税務署に臨場する前に国税通則法96条証拠を改めて確認した。
持ち出しはなしで、付箋と罫紙と筆記具くらいを持って行く。
まずは、署長室に入ってご挨拶したが、1部門の統括官を含めて穏やかな感じの人だった。

(補足)
この署長はその後国税局の課長から部次長となり、最後は大規模税務署の署長で退官されました。
署長室でのお話で記憶に残っているのは、外様職員である私に対して「そういえば、大阪国税局庁舎の(審判所のある)13階で、明らかにウチの職員ではない雰囲気の職員がエレベーターで乗り降りしていたが、あなたのような方だったのですか」と言われたことです。
やはり、国税プロパー職員と比べると明らかに違う雰囲気を醸し出していたのでしょう。
私など、公務員組織からすると明らかに緩い雰囲気の監査法人から来た身ですから余計にそうでしょう・・・。

税務調査資料は30㎝くらいのボリュームであったが、大方は預金関係資料で今回の原処分に直接関係のないものであり、原処分に関係のあるものは請求人との応答記録もないくらいの少ないものだった。
調査経過記録書などをコピーしようとしたが、総括審判官から「今回は調査手続が問題になっていないので不要なのでは?」というコメントがあり、「来年の国税不服申立制度の改正を見据えて、事件審理に本当に必要な資料のみ依頼しましょう」ということで、最低限の証拠についてコピーを依頼して帰った。
原処分庁は、こちらの判断基準にしようとしている先例裁決を入手して検討した上で原処分をしているようだったし、審判所と原処分庁は少なくとも同じ目線であるようだ。
途中で、1統官が近くの喫茶店からコーヒーを出前してくれたが、結局支払いせずに1統官にお礼を言って失礼した。

(補足)
税務調査では必ずといって良いほど「調査経過記録書」が作成されていますが、本件は税務調査手続違法が争点ではない見通しだったため、総括審判官が証拠収集不要と判断しました。
平成28年施行の改正国税不服申立制度前は、担当審判官が職権で収集した証拠は審査請求人の閲覧対象ではありませんでしたが、改正後は閲覧謄写が可能となり、原処分庁側が「審査請求人の主張に対してこの証拠は必要なのか?」という物言いをしてくる可能性も考えられたことから、厳選した証拠の収集を1年目の私に指導したのだろうと思います。

3.議決書案のチェック

副審判官とは明日から5月12日まで顔を合わさないことになり、副審判官が担当しているB事件について、「これが最終です」という言葉を添えられて議決書案を受け取ったが、条文を引きながらチェックしていくと、関係法令のところを中心に修正箇所がポロポロ出てきてそれを副審判官に指摘した。
そんなに長い議決書ではないが、法令や証拠に立ち返ってきちんとチェックしようと思うと1時間弱はかかるものだ。
本部所長の6月の事務視察後の懇親会については、対象は審判官以上ということで的が大きくなるじゃないか!・・・でも、本部所長に謁見して会食する機会もなかなかないので、これからのネタという点では良いかと思う。

(補足)
議決書とは、裁決書の基礎となる担当審判官・参加審判官の計3名からなる合議体の結論を裁決書形式で取りまとめた書面であり、これを法規審査が修文して次席審判官・首席審判官(所長)の決裁を経て裁決書になります。
当然ながら、法令や証拠に基づいて無謬性が確保されるように幾重にもチェックしていくのですが、民事判決の起案訓練など受けたことがない税務職員や税理士にとってはなかなか骨の折れる作業なのです。

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