1.申告納税制度の表の面
税理士法1条にある「申告納税制度」ですが、これにどういったイメージをお持ちでしょうか。
文化勲章受章者である金子宏先生の「租税法(22版)」54頁には、「納税者の激増に対処するためのやむをえざる措置であったともいえるが、しかし、この制度は、納税者が自分の税額を自ら計算し納付する制度であるため、民主的な租税思想にふさわしいものであると考えられた。」とあります。
また、税理士会等が発行している冊子等を見ても、さも、納税意識の高い国民だから成り立つ高邁な制度であるような書き方がなされているように思います。
2.申告納税制度の裏の面
しかし、国税不服審判所を経験してからそんなイメージは一掃され、申告納税制度は納税者救済のハードルを上げる酷な制度と感じるようになりました。
まず、徴税(行政)コストを納税者に負担させることに成功しています。
税理士制度は申告納税制度を基礎としており、これがなくなれば、我々は「おまんまの食い上げ」になるのかもしれませんが、それを措くとしても、申告納税制度によって、国税庁の予算はかなり縮減できているはずです。
そして、私が、申告納税制度が納税者にとって酷だと思うのは、裁決書において、同制度は、納税者の主張を排斥するためにしか使わないキーワードだからです。
例えば、無申告加算税が課されない正当な理由(国税通則法66条1項ただし書)があるか否かが争われた事案があるのですが、裁決要旨に以下のように書かれています。
「しかしながら、同項ただし書に規定する『正当な理由があると認められる場合』とは、(略)真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、(略)と解するのが相当であるところ、申告納税制度の下において、どのような納税申告をすべきかは、納税者の責任と判断に任されており、請求人らは、申告相談における職員の対応いかんにかかわらず、自らの責任と判断において適正に期限内申告をすべきであったといえるから、仮に、請求人らが主張するような職員の対応があったとしても、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえない。
3.権利救済のハードルを上げるための申告納税制度
他にも、多少、請求人の主張に難癖な臭いがしないでもない事案もあるのですが、最近の私の記憶にある裁決書でもだいたい以下の調子であり、申告納税制度が権利救済のハードルを相当上げているように感じました。
・更正の請求を期間制限することなく無制限に認めることとした場合には、税務行政の円滑な運営を著しく阻害し、申告納税制度の根幹を揺るがす結果となる。
・申告納税制度は、納税者の判断と責任において、その所得等に関する事実関係や法令等を調査し、十分な検討をした上で適正な申告を行うことを要求しているものと解される。
・それは請求人の主観的な事情に基づく単なる税法の不知又は誤解に基づくものにすぎない。また、課税庁が満期保険金等を把握した時点で納税者に確定申告が必要である旨の連絡をしなければならないとする法令の規定はなく、申告納税制度の下においては一般的に課税庁にそのような義務があるとは解されない。
・申告納税制度の下では、確定申告の告知は納税者に対する行政サービスの一環にすぎず、納税者はそのような告知がなくとも自身の判断と責任において申告書を提出すべきである。