1.民間登用の国税審判官が任用される契機
現在、国税不服審判所には、民間登用の国税審判官が50名配置されています。
私のような民間登用者を受け入れるようになった契機は、民主党政権下で取りまとめられた平成22年度税制改正大綱に以下の言及があったことによります。
<一部抜粋>
(2)国税不服審判所の改革
(略)しかし、国税不服審判所の現状は、この重要な役割を果たすには十分ではありません。特に、その機能を果たすために最も重要な審判官の多くを国税庁の出身者が占めていることは問題です。(略)これらの観点から、国税不服審判所の組織や人事のあり方、(略)などについて、行政不服審査制度全体の見直しの方向を勘案しつつ、納税者の立場に立って、適正な税務執行が行われていることが国民に明らかになるよう、必要な検討を行います。
当時、国税不服審判所は、創設40周年の記念事業が企画されていましたが、これを受けて軒並み中止になったと聞きます。
そして、翌平成23年度税制改正大綱において、改革の具体化が示されました。
<一部抜粋>
国税不服審判所における審理の中立性・公正性を向上させる観点から、今後、国税審判官への外部登用を以下のとおり拡大することとし、その方針及び工程表を公表します。
① 民間からの公募により、年15名程度採用します。
② 3年後の平成25年までに50名程度を民間から任用することにより、 事件を担当する国税審判官の半数程度を外部登用者とします。
2.税理士(公認会計士)のシェア
この民間登用者50名の出身業界は、国税通則法施行令31条(国税審判官の資格)1号に依拠すると、「弁護士」「税理士」「公認会計士」ということになりますが、この内訳は、概ねですが、「弁護士が約半分」「税理士が約3分の1」「公認会計士が約6分の1」となっています。
税理士がこれを聞くと、決まって、「なぜ税理士のシェアが3分の1しかないのか。国税の官職なのだから、少なくとも弁護士よりも少ないのはおかしいのではないか。」というご意見をいただきますし、私もそのように感じて任官しました。
任官2日目だった平成26年7月11日、平成26事務年度に大阪国税不服審判所に任官された民間登用の国税審判官(私を含めて3人で、私以外の2人は弁護士)が、瀧華聡之大阪国税不服審判所長(現在大津地裁所長)から個別面談を受ける機会があり、所長室に入りました。
そこで、私は、上記の疑問をそのまま瀧華所長にぶつけてみました(今から思えば不遜なことをしました)。
その時のお答えは、「国税プロパー職員に与える気付きは、税理士出身者よりも、弁護士を含む法曹出身者の方が多く与えられるからではないかと思います」というものでした。
当時は、「そんなものなのかなぁ」という印象でしたが、3年間経験して、瀧華さんのお答えに大いに首肯しています。
3.国税プロパー職員の期待
国税不服審判所は、国税の裁判所のような組織ですが、その上に控える裁判所において、自らがした判断がどのように検証されるかに大きな関心があります。
そういった意味で、国税プロパー職員が、法廷の構成員である法曹出身者の思考を意識するのは自然であり、そういった者のコメントの影響力が相対的に大きくなります。
税理士は、弁護士に比べて、税目横断的に規定を理解し、実務に精通していることは言を俟たないのですが、だからといって、国税審判官に本来期待される能力としては、それだけでは不足していますし、何より、私自身が、同じ部門に弁護士出身者がいることのありがたみを感じて審理に従事していました。
また、周りには、各税目のスペシャリストである国税副審判官・国税審査官が控えており、税理士が税目横断的に規定を理解しているといっても、それが大きなアドバンテージになっているようにも感じませんでした。
国税不服審判所を経験した者としては、「弁護士が半分」「税理士・公認会計士が半分」という現体制は妥当なのだろうと思いますし、任官される税理士は、弁護士を含む法曹出身者から多くの気づきを得ているのです。