1.不服申立てのルート
納税者が国税に関する不利益処分(例えば、増額更正処分・加算税の賦課決定処分・更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分など)を受けた場合には、以下の不服申立ての手続きに進むことができます。
① 原処分をした国税局長又は税務署長に対する「再調査の請求」
② 各地域審判所の首席国税審判官(すなわち各地域審判所長)に対する「審査請求」
平成28年3月31日以前の処分については、一部の例外を除いて①(従前の「異議申立て」)を経なければ②に進むことができなかったものが、同年4月1日以後の処分からは、上記の①と②は並列的な扱いとなり、「①を経由してそれでも救済されない場合に②に進むルート」と「直接②に進むルート(直接審査請求)」が選択できるようになりました。
?2.なぜ「再調査の請求」を経由しないのか
現在は「直接②に進むルート(直接審査請求)」が全体の70%程度を占めているようです。
なぜ、納税者は①の「再調査の請求」をショートカットするのでしょうか。
「再調査の請求」は処分をした国税局長又は税務署長に対して判断の見直しを求めるものですが、おそらく、納税者は「課税すべきと判断した自分自身がその判断を変えるはずがない」と考えているからかもしれません。
直接審査請求に進む納税者の心理が、「端(はな)から『再調査の請求』に期待していない」のか、それとも、「審査請求を担当する国税不服審判所を積極的に期待している」のかは措くとして、事案にもよりますが、私は、直接審査請求に進むことが必ずしも最善の方法であるとは思っていません。
確かに、判断権者の独立性という点では、審査請求を担当する国税不服審判所の方が期待できます。
「再調査の請求」は、言葉の上では「再調査審理庁」という機関が処理することになりますが、「原処分庁」と同じ国税局長又は税務署長であることに変わりはなく、処分の取り消しが期待できないとの印象を持つことは自然なことです。
しかし、判断権者が実質的に同じといっても、実際に審理する者は税務調査当時の担当者ではなく、税務署長処分の場合には、その税務署の第1部門の統括国税調査官とその部下である不服申立て担当(上席)国税調査官が担います。
また、現実的には、必ずしも十分ではない証拠に基づいて原処分をしているケースもみられ、「これが、国税不服審判所において取り消され、その事績が裁決書という形で残り、将来の税務調査の遂行に支障を来すくらいであれば、ここで取り消しておいた方が良い」との判断に傾くことも考えられます。
特に、現在の国税不服審判所は、担当審判官の半数程度は弁護士・公認会計士・税理士によって占められ、「必ずしも国税の論理がそのまま通用するとは限らない」との印象を持たれていることも推察されます。
実際には、年度によって異なるものの、10%程度は「再調査の請求」によって取り消されています。
3.「再調査の請求」をショートカットするということは
上記の視点に加え、私が思うのは、「『再調査の請求』をショートカットするということは、自らが戦う土俵をみすみす1回放棄することになるのではないか」ということです。
もちろん、初めから税務訴訟を承知の上での戦略であれば、出訴までの期間をできる限り短くするために直接審査請求を行うという選択肢もあります。
しかし、「再調査の請求」は担当者の目が変わりますし、国税不服審判所で取り消される可能性のある事案は、ここで取り消しておかなければならないというプレッシャーもありますので、納税者の一般的な印象よりは期待できるという側面があると考えています。
ちなみに、国税不服審判所の担当審判官の立場からすると、できる限り「再調査の請求」を経由してから審査請求をしてほしいと思っています。
それは、担当審判官が、いきなり「審査請求書」を拝読しただけでは、争点や納税者の主張がいまいち理解できないことが往々にしてあるからでして、再調査審理庁が起案した(再調査審理庁なりに争点整理した)「再調査決定書」を読んで初めて事案が理解できるということがあるからです。