1.クレームのお電話
私は、これまで、ビジネスの世界で、相手から一方的に電話を切られた経験がありませんでしたが、国税不服審判所ではありました。
典型としては、裁決書謄本を審査請求人・原処分庁の両方に配達証明郵便で発送(訴訟のように「判決の言渡し」という機会はありません)した後に、審査請求人からお電話をいただいたときです。
特に、審査請求棄却(納税者負け)の場合に、「なんでなんだ!」「この文章はどういう意味なんだ!」「この事実認定は間違っている!」という趣旨のお電話(クレーム)をいただきます。
2.裁決書の内容に対するお答え
私は、任官当初、公務員としてどのように対処すれば良いのかわからなかったのですが、周りの国税プロパー職員から、「そういう電話が来たらこのように言ってください」と言われました。
「審査請求書に対する国税不服審判所のお答えは、裁決書という書面の中でしております。裁決書は、国税不服審判所長(本部所長)名でお出ししているのであり、一担当者が、それに対して解説を加えるような、行間を読むようなことは許されておりません。ご案内した裁決書をどのようにお読みいただいても結構でして、仮に、その内容になお不服があるということであれば、所定の期限内に次のステージ(原処分取消訴訟)にお進みいただくことができますし、その詳細については、同封しております教示文に記載しております。国税不服審判所から申し上げることはこれ以上にはございません。」
ここまでいうと、たいがいの審査請求人は一方的に電話を切ることになり、やり取りが終了します。
上記のご案内は、最終的には一方を必ず負けさせる国税不服審判所の立場の厳しさを示すものであり、自己に与えられた権限の範囲内でしか仕事ができない公務員のしがない部分も顕れているようにも思います。
上記の対応になお納得できない審査請求人は、苦情処理を担当する管理課に引き継がれることになります。
私は経験がなかったものの、「〇〇さん、勝たせてくれてありがとう!」という歓喜の電話もたまにありますが、その担当者も「別に勝たせたいと思って、あんたを勝たせたんじゃないけどな」と思いつつ、「法律と証拠に基づいて判断した結果です」などと応じて電話を終えていました。
3.書面で説明「し切らなければならない」
審判所は、その答えを裁決書という「書面」の中でしかすることができず、図などを使うことはあっても、マーカー・下線・斜体で強調することも許されず、基本的に5W1Hの公用文の縛りのなかで説明「し切らなければならない」という意識をもって裁決書を起案していくことになります。
それは、裁決書謄本を読んだ審査請求人が疑問を持っても、上記のような紋切り型の回答しかできないからであり、たとえ負けさせるにしても、少しでも納得性を高める裁決書が作成できるかが、担当審判官の究極目標ということになると思います。