【0004】国税不服審判所における合議の性質

1.事件審理の組織体系

国税不服審判所には、大別して、①面談や職権調査をして裁決書案を起案する(民間出身を含む担当審判官が所属する)「審判部(部門)」と、②審判所長の補佐として法規審査を担当する「審理部(部門)」があります。

部(部門)の組織名称は、各地域審判所の規模などによって異なり、私が在籍していた大阪国税不服審判所においては①は「第一(二)部」②は「審理部」、東京国税不服審判所においては、①は「審判第二(三・四)部」②は「審判第一部」という組織名称でした。

2.川口冨男さんの教え

稀に、審判部と審理部の意見がかみ合わないこともありました。

そんな中、当時の大阪国税不服審判所長であった黒野功久さん(現高知地裁所長)が、部長会議の場である1枚のコピーを配付されました。

それは、黒野さんが新人判事補の時に属した裁判体の裁判長であった川口冨男さん(後に高松高等裁判所長官)の法律雑誌のコラム記事で、「討議と対話・・・裁判における『合議』の性質・・・」というタイトルでした。

そこには、要旨以下の内容が述べられていました。

裁判体の議論は、『討議』ではなく『対話』である。

・『討議』は打楽器などと語源が同じで、相手を分析して打ち負かし解体しようとするが、それで意見が一致することは少なく、物別れになるか多数決で決めざるを得ない。そして、相手とは次第に距離を置くようになる。

これに対して、『対話』は、まるで3人の裁判官が1個の脳を共有するように検討することになり、その脳はかなり容量が大きく、複眼的な性質を持つことができる。そして、各裁判官が自分の意見を固められるようになる。

合議はまさに『対話』に当たり、これによって、星雲状態の事実関係から事件の処理に必要な要素を固めることができる。

合議では「飛び乗り飛び降り勝手次第」として、当初の意見にこだわらず、柔軟に意見を修正することが大切である。

3.黒野所長がおっしゃりたかったこと

黒野さんは、「合議は『対話』であるべきなのに『討議』になっていませんか?」とおっしゃりたかったのだと思いますが、担当審判官の独立性に配慮されていたのか、担当審判官に対して直接説諭されることはありませんでした。

微妙な(明確な答えのない)事案ほど自分の立場に固執して譲れなくなりますし、相手が自分よりも弱いと察知すると更に攻撃したくなるのが人間の本能なのかもしれません。

黒野さんは、大阪国税不服審判所職員に対する訓示の中で、よく「三人寄れば文殊の知恵」という言葉をおっしゃっていたのですが、ある一つの結論を導くために議論するときには、「討議」ではなく「対話」でないといけないということをこのことわざの引用に込められていたのかもしれません。

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