1.国税審判官にも人事評価はある
民間出身であっても常勤の国家公務員であり、部長審判官という上司(国税プロパー職員)から人事評価を受ける立場にありました。
しかし、評価基準は、「担当件数」や「裁決書案の枚数」といった定量的なものではなく、極めて定性的な評価手法でした。
一応、上期・下期に分かれ、評価対象期間開始時には、自分で「業務目標」を立て、評価者の期首面談を受け、評価対象期間終了時には、自己申告をし、期末面談を受け、評価者に「所見」「標語(S/A/B/C/Dの5種類)」を付けられることになります。
2.私の業務目標と自己申告
私の国税審判官3年目の業務目標は、次のようなものでしたが、「いずれか1つは、ワークライフバランスに関するものにするように」との指示があったので、無理矢理③をひねり出しました。
① 当事者双方の主張の真意を汲み取りながら、担当審判官主導で争点に直接関係のある主張を取り上げることによって、簡潔明瞭な裁決書案を作成する。
② 国税不服審査制度改正後の審査事務提要その他の取扱いについて十分に把握するとともに、増加する事務手続きを見据えてスケジュール管理する。
③ 審査官に業務を指示するに当たっては、その能力・経験に加えて、共働き世帯・多子世帯といった当該審査官のおかれた家庭環境にも配慮する。
業務目標が定量的ではない(事後の検証可能性が乏しい)ものでしたので、評価対象期間終了時の自己申告(字数制限50文字)も、このくらいのことしか書けませんでした。
① 法規審査担当者と早期から連携し、求釈明案、裁決書案及び処理方針についての意見交換を活発に行った。
② 評価期間中の新法適用事件の関与は初期段階であったが、旧法適用事件はおおむねモデル処理期間内に処理した。
③ 指示に当たっては、余裕を持って期限を設定し、終業時間間際の指示は避けるといった配慮を実施した。
(目標以外の業務の取組状況として)
④ 近畿税理士会・日本公認会計士協会の研修会において、国税不服審査制度及び民間登用審判官募集の広報を行った。
3.メリハリのない評価
こんな調子ですので、メリハリの利いた評価になるはずもなく、国税審判官1年目から3年目まで標語(ランク)は「A」でした。
特に、国税審判官1年目は、「隣の部門にいる3年目の弁護士出身の国税審判官が『A』なのに、何かの間違いではないですか?」と当時の部長審判官に質問したことがありました。
応答は、「公認会計士・税理士の経験を十分に発揮してもらっているので・・・」というものでしたが、「ホンマかいな?こんなに戦力になっていないのに」と自分でも不思議に思っていました。
そして、3年間を通じて、そもそも、ランクの配分が「S/C/Dはほとんどおらず、Aが40%・Bが50%」という配分であることに加え、「民間出身の国税審判官は、国税不服審判所本部直轄で採用している(国税不服審判所本部所長が直接面接している)ため、たとえ、期待どおりの戦力でない場合でも、悪い評価にはできないという『忖度』があるらしい」ことが薄々とわかってきました。
そして何より、人事評価の結果は、民間出身の国税審判官の給与・賞与に全く影響がありませんでした。
上記の事情から、「おおむねみんな良い評価」になるのですが、「良い評価」だからといって、特別な加算があるわけでもなく、「結局、人事評価という『手続を形式的に』やっているだけで、まだまだ『ことなかれ主義』が生きている世界である」ことを実感しました。
しかし、3年間にわたり自分の力不足と戦っていた私にとっては、実は、こういった「ことなかれ人事評価」に救われていたのかもしれません。