1.国税通則法の条文に当たる
国税通則法は国税に関する一般法であり、国税の納付義務の確定・納付・徴収・還付・附帯税・更正決定・不服審査・訴訟・犯則調査などの共通事項が記載されています。
上記のとおり、各分野を横断的に規定しているため、その重要性を認識する機会が乏しく、特定の租税債権者(税務署長)と租税債務者(納税者)との間に租税債権債務を成立させる課税要件を規定した租税実体法を重視してしまうというのが税理士先生のスタンスではないでしょうか。
かく言う私もそういった税理士で、専門学校が編集する税理士試験の税法科目の理論問題集の「1.国税通則法の原則」という項建てを丸暗記すること以外に関わりがなく、増して国税通則法の条文に当たるということなどしたことがありませんでした。
しかし、国税不服審判所を経験して、国税通則法の条文に当たる機会が多いことに気が付き、税理士登録して(任官時点で)16年も経過して、やっとその重要性を認識するようになりました。
2.裁決・判決による更正の請求
国税通則法23条は更正の請求の原則を規定しており、同条2項3号の「やむを得ない理由」について政令委任した国税通則法施行令6条1項は、その5号において、
「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正又は決定に係る審査請求若しくは訴えについての裁決若しくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、当該課税標準等又は税額等が異なることとなる取扱いを受けることとなったことを知ったこと。」
と規定しており、「歩道上空地」の取扱いの変更を例に説明します。
歩道状空地は、これまで建物の敷地の一部として評価していましたが、最高裁判所第三小法廷は、平成29年2月28日、5名の裁判官全員一致の意見として、私道の用に供されている宅地に該当するか否かについて更に審理を尽くさせるために、原判決(東京高裁平成28年1月13日判決)を破棄して差し戻す判決を下しました。
これを受けて、国税庁は、平成29年7月24日、「財産評価基本通達24(私道の用に供されている宅地の評価)における『歩道状空地』の用に供されている宅地の取扱いについて」を公表し、歩道状空地についてのこれまでの財産評価の取扱いを変更しました。
その公表された「変更後の解釈」のアナウンスには、過去に遡って適用されるため更正の請求が可能である旨の説明がありますが、その末尾に以下の1文が挿入されています。
「なお、法定申告期限等から既に5年(贈与税の場合は6年)を経過している相続税等については、法令上、減額できないこととされていますのでご注意ください。」
3.「法令上減額できない」とは
ここでいう「法令上減額できない」を敷延すると、以下の説明になります。
① 法定申告期限から5年を経過してしまうと、税務署長は国税通則法70条1項による更正処分をすることができない。
② 国税通則法71条1項2号の「その他これらに準ずる政令で定める理由」について政令委任する国税通則法施行令30条及び同令24条4項が、同令6条1項5号を除外している。
③ したがって、納税者からの更正の請求は可能であっても、税務署長は更正処分をすることができない。
ちなみに、国税通則法施行令6条1項5号を除外する旨の同令30条及び同令24条4項の規定の国税通則法適合性について、大阪地裁平成28年8月26日判決(判例タイムズNo.1434 2017.5 192頁)があります。
他の事案の裁判の成り行きをコントロールできないにもかかわらず、その結論が法定申告期限から5年を経過したことをもって救済の道が閉ざされるのは酷ではないかというご意見はもっともであるところ、現状の国税通則法上の後発的事由による更正の請求にこのような論点が潜在しています。