1. 国税庁における経験者採用
人事院は国家公務員の中途採用に関する情報提供を行っており、国税庁においても社会人経験を有する者の採用試験を実施しています。
例えば、国税庁の令和2年4月1日の採用予定者数は全国で220名としており、平成31年4月1日の採用者は218名(うち女性50名)であったことが人事院から公表されています。
現在の国税職員の年齢構成は、50歳代のボリュームがもっとも多く、定員合理化などの影響を受けてか、その下の世代の在籍者数が相対的に少ない状況になっています。
50歳代の世代の定年を控えているほか、昨今の人手不足は公務員の世界であっても例外ではなく、新卒一辺倒の採用では人材確保に限界が生じているということかもしれません。
2.国税庁の経験者採用試験の概要
国税庁の経験者採用試験は、大学卒業後の正社員としての社会人経験が8年以上の者を対象にしています。
試験自体は、新卒の採用試験と大きく変わりはないようですが、民間企業の中途採用と同様に、これまでの社会人経験がこれからの職務で活かせるのか否かといった面接試験の影響力が相対的に大きくなることは言えるでしょう。
採用時の俸給(基本給)は、国税専門官採用試験による採用後8年の経験年数を有する国税調査官級の標準的な俸給(278,100円:平成31年4月1日現在)を下回ることはありませんし、扶養状況や任地によって各種手当の支給もありますので、転職という人生の軌道修正の割には、待遇面のハンデは少ないのかもしれません。
3.出世のハンデ
経験者採用試験による採用者は、その応募資格の特徴に照らして30歳代が中心となりますが、40歳代の者も一定数含まれ、中には45歳前後で採用された者もいるようです。
しかし、新卒採用で国税職員となった者で45歳前後という年齢は、税務署の官職でいうと、少なくとも上席調査官であり、連絡調整官(1部門統括官補佐)・統括官、出世が早い方は小規模税務署の総務課長というケースもあって、そのような者が「(上席でない)調査官」からスタートするというのは、出世という点でかなりのハンデを負っています。
私は任期付とはいえ常勤で国税組織に勤務して、国税職員と机を並べて仕事をして得た肌感覚が残っていますが、公務員という世界は民間に比して相対的に上下関係が厳しく、特に国税の世界では「1期違えば虫けら同然」という言葉も残っているくらいで、待遇面では受忍できても、中途採用者が組織特有の上下関係に耐えられるだろうかという印象を持っています。
特に、国税職員の本務といってよい「税務調査」は、知識のみならず何より経験がモノを言う領域です。
そして、実際には、待遇面においても、「生涯年収」や「退職手当」という視点で俯瞰すると、新卒採用者と中途採用者には決定的な格差が顕れるのが公務員の世界ではないかと思います。
民間企業であれば中途採用市場が充実していて、本人にスキルがあれば転職が待遇面でもステップアップになる例がままあると思いますが、周りと差がつかない公務員に「特進」は期待できません。
国税職員は、浪人・留年・無職などによって新卒任官時の年齢が通常(高卒18歳・大卒22歳)よりも高めである者を「年食(としく)い」と言っていますが、これ自体あまり良い意味で遣われる言葉ではなく、新卒(生粋)の国税職員の中には、中途採用者をそのように捉える向きがあるのではないかと推察しています。