1.あの部長は「ポストで来ているだけだから」
私が国税不服審判所においてよく聞いた言葉に「ポストで来ている」があります。
これは、その方に不服申立てや審理の職能があるか否かは措くとして、その方の国税職員としての格付けに見合ったポストとして、たまたま国税不服審判所内のポストに就いたことを言いたいときに使われます。
「あの部長審判官はポストで来ているだけだからよくわかっていないのに、事案の処理方針にあれこれ口を出して困る」というように、上司に対して(陰でこそこそ)言うこともあれば、「自分はポストで来ているだけだから、審判実務はよくわかっていないんだよ」というように、ご自身の自白として用いられることもあります。
実際に、私がお仕えした部長審判官も、事務年度初めの顔合わせ会で、「審判実務は初めてだから、間違ったことを言っていれば早めに指摘してほしい。」という趣旨のことをおっしゃっていたことがありますが、傍から見れば、「なぜ、審判実務の心得がない者がいきなり部長審判官になるのか?」という疑問を持たれるかもしれません。
2.出世双六のマスの一部
いわゆる「ノンキャリ」と呼ばれる税務職員(高卒相当)・国税専門官(大卒相当)の出世双六の「上がり」ポストは(大規模税務署の)税務署長ということになり、そのチャンスを得た方が定年に近づくと、定年からの逆算で国税職員の格付けが決まることになり、それに見合ったポストを転々とすることになりますが、国税不服審判所内の官職もその転々とするポストの1つになります。
定年の事務年度に大規模税務署の税務署長になる予定の東京国税局出身の方を例にお話ししますと、管轄を共有する税務署長と(役付を含む)国税審判官は直接に行き来をすることができませんので、例えば、定年の前年度に部長審判官となる場合には、東京局の管轄外に出る必要が生じます。
国税不服審判所は税務署長による課税処分を取り消す権限があり、「前年度に税務署長である自分がした不利益処分について、今年度になって国税審判官としてその処分が適切であるか否かを審理する」ということは客観性が乏しいからです。
かくして、各地域の国税不服審判所の部長審判官ポストには、その地域の管轄外出身で「税務署長ポスト待ち」の税務職員が多く就くことになり、その方が審判実務に精通しているか否かという要素は全く考慮されないとはいえないものの、審判実務の心得のない方も普通に赴任されるということが起こります。
3.ポストが人をつくる
しかし、これは国税プロパー職員に限ることではありません。
私とて、不服申立ての代理人を経験せずに国税審判官に任官されているのですから、他人のことはいえません。
日本公認会計士協会近畿会主催研修の講師に招聘されて、公認会計士出身の国税審判官である私と後輩の2名が伺ったことがありますが、その控室で、その後輩の審判官が、「民間は、上に就く能力がある者を上に就けるが、公務は、そのポストに就いて経験を経ることによって、そのポストが人を作るんです」と言い、接遇をしていただいた協会の役員から「君も偉くなったもんだ」と冷やかされていましたが、確かに、そういったことはあるのではないかと思います。