【0028】国税通則法99条事例

1.国税庁長官への「通知」

国税通則法99条は、国税不服審判所長が国税庁長官通達による法令解釈と異なる解釈により裁決をするときは、あらかじめその意見を国税庁長官に通知することを要求しています。

行政不服審査関係の一連の改正前は、国税庁長官に「申し出なければならない」旨が規定されていましたが、いかにも「上にお伺いを立てる」というニュアンスであり、判断機関の独立性として疑問を抱かせる規定ぶりであったために、対等感を醸し出すためにこのような改正になったと聞きます。

そうはいっても、国税不服審判所長(本部所長)の俸給は国税庁内でNo.2(指定職俸給表5号俸)であり、長官(同7号俸)よりも格下であることには変わりないのですが・・・。

2.長官通達と異なる解釈をした例は何件あるか

国税不服審判所のパンフレットには、「国税不服審判所長は、国税庁長官通達に示された法令解釈に拘束されることなく裁決をすることができます。」と謳われ、国税通則法99条の体系が図示されています。

これだけを見ると、国税不服審判所の国税庁長官からの独立性が強調され、そういった事例が頻繁にあるような印象を読者に抱かせるかもしれません。

しかし、1970年に国税不服審判所が創設されて以来、同所が国税庁長官通達と異なる解釈による裁決をした例は、全国で9件しかありません。

これまでに国税不服審判所が出した裁決の累計はわかりませんが、99.9%は国税庁長官通達のとおりに解釈をしているといって差し支えありません。

3.具体的な事例

その貴重な9例のうちの1つをご紹介します。

所得税の住宅借入金等特別控除(いわゆる「住宅ローン控除」)において、当初、「本人2/3・妻1/3の持分で債務は両者の連帯債務」で本人だけが控除を受け、その後の離婚に伴う財産分与によって、本人が元妻の持分を取得し、その年から持分3/3で控除を受けていたところ、原処分庁が「適用は『一の家屋に限る』もので、財産分与によって新たな家屋を取得したことになる」として追加取得に見合う控除は認めない旨の更正処分をした例です。

国税不服審判所は、租税特別措置法41条の2、租税特別措置法施行令26条、民法249条の解釈の下、いずれの共有持ち分についても住宅ローン控除を適用することとしても制度趣旨に反しない旨の申出を国税庁長官に行いました。

国税通則法99条の体系としては、国税庁長官は、国税不服審判所長の意見を相当と認めない場合には国税審議会に諮問することになりますが、本件事案は、長官が審判所長の意見を受け入れたため、同審議会に諮問されることなく更正処分が取り消されました。

4.両雄並び立たず

本件に限らず、9例のいずれも、国税庁長官は、国税不服審判所長による申し出(通知)のとおりに認容しており、国税審議会の議決に判断が委ねられるケースはこれまで1度もありませんが、私は、将来的にも同審議会までもつれるケースは出て来ないと考えています。

それは、国税審議会に判断が委ねられるということは、国税庁長官(No.1)と国税不服審判所長(No.2)の意見が国税庁内ですり合わせできなかったことを自白し、かつ、同審議会の議決によっていずれか一方の意見が排斥される(恥をかく)ことを意味します。

官僚的組織においては、たとえ内部に意見の対立はあったとしても、対外的には1枚岩を演出することになり、組織内部でいずれか一方が折れることによって決着を見ることになるのが通常です。

これまでの9件は、国税庁長官が、格下であるも判断機関である国税不服審判所の意見を尊重することで、「審判所が有効に機能していること」及び「国税庁の度量の大きさ」をアピールしているという側面もないわけではないと思います。

それでも、49年間でたった9件なのですが・・・。

ちなみに、国税不服審判所の「審査事務の手引き」には、たとえその適用局面が数年から数十年に1度の頻度であったとしても、国税通則法99条関連の様式も整備されています。

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