1.いかに裁決書という書面の中で説明を仕切れるか
国税不服審判所は裁決書という書面の中でしか審理関係人(審査請求人・原処分庁)に回答することができません。
そうすると、いかに裁決書という書面の中で審理関係人に対して説明を仕切れるかを意識して起案せざるを得ませんし、それが独り歩きしてその事案について初見の方が読んでも内容が把握できるように書けているかという視点も重要です。
2.帳簿及び請求書等の「保存」
消費税法30条(仕入税額控除)7項は、要旨「帳簿及び請求書等を『保存』しない場合には適用しない」と規定されていますが、その「保存」という文言にどこまでの意味を持たせるかが論点になります。
この点、平成16年12月16日最高裁第一小法廷判決は、「事業者が税務検査の際に適時に提示し得るように態勢を整えて仕入れに関する帳簿、請求書等を保存していなかった場合には、適用されない。」等と判示し、裁判官全員一致で上告人の請求を棄却・却下した(平成13年(行ヒ)第116号)ことに加え、同年12月20日最高裁第二小法廷判決も同旨の判示を行い、上告人の請求を棄却しています(平成16年(行ヒ)第37号)。
後者の判決における滝井繁男裁判官は、「保存」の拡大解釈は消費税制度の本来の趣旨に反するものと考えられるとして反対意見を述べているものの、現在の税務執行の現場における判断基準は、「保存」という文言に物理的な保存以上の意味付けを込めて臨んでいます。
これが消費税法30条7項の「保存」の法令解釈であるとして、その判断の物差しに当てはめるべき事実関係として、裁決書の「認定事実」の項にどのように表現すべきでしょうか。
例えば、請求書等の保存状況について、「乱雑」とか「放置」といった文言を用いることは妥当でしょうか。
これらの文言は、多分に判断権者の「評価」が介入しています。
審判所内部ではこれを「評価含み」という表現をしますが、本件のような事案では、「認定事実」の項には、可能な限り「生の事実」を記載して、その後に、認定事実の法令解釈への当てはめをする項で、「その事実関係では消費税法30条7項の『保存』とは評価できませんね」という説示をするのが自然だと思われます。
3.生の事実
「生の事実」とは、誰が読んでも同じ場面を想起できるように記載することであり、例えば、以下の視点で(例)のような記載をすることです。
・帳簿及び請求書等の保存スペースの大きさやその配置
(例)縦〇cm横△cm高さ□cmの段ボール箱●箱・・・
・綴り紐や糊による貼付によって、請求書等が時系列に整理されていたか否か
・請求書等に関係のない資料が混在していたか否か
(例)各段ボール箱には、角型2号封筒が12冊梱包されており、各封筒は請求人本社に到着した支払に関する書類が概ね各月単位で入れられていたものの、各封筒には他の月及び他の年の書類が含まれ、かつ、未開封の封筒が含まれる状況であり、調査担当職員が▲という特定の課税仕入れの請求書等の提示を要請しても、請求人はそれを提示することができなかった。
・税務職員の検査に必要な時間を確保していたか否か
(例)請求人は、次回の実地検査を1か月後の午後4時45分に指定し、調査担当職員が指定日時に本社に臨場したが、午後5時になると次回の実地検査を1か月後の午後4時45分に指定した上で営業時間の終了に伴い退出を要求し、調査担当職員による請求書等の留め置きの要請にも応じなかった。
これらを「乱雑」という文言で表現できれば起案する側としては簡単なのですが、それでは「認定事実の法令解釈への当てはめ」までのプロセスをショートカットしてしまっているのです。
こういった指摘は、法規審査担当者や弁護士出身審判官によってなされることが多いのですが、税理士・公認会計士がこういった訓練を組織的に受ける機会はまずないため、民事判決起案の心得のある先輩・同僚(部下であることも多い)から指導を受けてやっとこなしているというのが実際のところです。