1.書面でしか回答できない
私が国税不服審判所において裁決書案(議決書といいます)を起案するに当たって苦労したことのひとつに「書面でしか回答できないこと」がありました。
「書面でしか回答できない」こと自体は特殊なことではなく、試験の答案用紙も同様です。
たとえ受験生本人が当然のことと思っていても、答案書いていないことは「この受験生は知らない」と思われても仕方がありませんので、受験生としては、制約された時間であっても、「この答案用紙に解答を書き切る」という意識が求められます。
2.認定事実をどこまで表現するか
裁決書に話を戻しますと、たとえその裁決が棄却、すなわち納税者負けの判断であったとしても、審査請求人の納得性が向上するか否かは、「理由」の書きぶりに懸かっています。
特に、法令解釈に当てはめるべき認定事実が、審査請求人の主張にどこまで沿ったものであるかが鍵になるように思います。
審査請求は、裁判のように「判決に言渡し」という機会はなく、裁決書の謄本が審査請求人及び原処分庁に送付されることになります。
通常は、裁決書の謄本をまず代理人が目を通した上で、審査請求人ご本人に「このような裁決です」とかみ砕いて説明されるのだろうと思いますが、ご本人が「これは絶対に間違いない」と確信している部分がけんもほろろに否定されたり、しょっ端から採用されていない裁決について納得を得ることはかなり難しいと思われます。
一方、ご本人が「これは絶対に間違いない」と確信している部分は裁決書において取り上げつつも、「それが法令解釈の要求する水準に至っていないので、残念ながらあなたの主張にくみできなかったのです」という裁決であれば「そういう判断であれば致し方ない」という受け取り方につながりやすくなります。
これは、代理人の立場からも言えることであり、「この事実は審判所が認めてくれた」という実績がその代理人への評価・信頼につながりますので、負けるにしても「負け方が大事」なのです。
3.判決書よりも分厚い説示が必要
そのような納得性をできる限り得るためには、どうしても裁決書のボリュームは長くなりがちになります。
しかしながら「裁決書は簡潔明瞭であるべき」という要請もありますので、記載すれば審査請求人の納得性が向上するかもしれないものの、審判所による判断材料に直接関係の薄い部分をどこまで書いて差し上げるかという点に担当審判官が腐心することがよくあります。
簡潔明瞭な裁決書は第三者から見れば読みやすく、今後の同様の事案の先達になるものですが、やはり第一義的には当事者(特に負けさせる側)に対して発出するものであるからです。
税務争訟のステージに進むには国税不服審判所に対する審査請求という手続きは必ず経る必要があり、それを「審査請求前置」と言いますが、だからこそ納税者の財産を侵害する虞のある行政機関としては、たとえボリュームが多くなったとしても、判決書よりも分厚い説示が要求されるのではないでしょうか。