【0216】徴収事件の不服申立て(不服申立適格・請求の利益・不服申立期間)

1.不服申立適格

不服申立適格とは、不服申立ての対象となる処分との関連で、誰がこの不服申立てを行うことが適切であるかという見地から、当事者の範囲を画するものです。
処分の名宛人は通常不服申立適格を有しますが、徴収関係処分については、処分の名宛人以外の者から不服申立てがされる場合が少なくないため、請求人が不服申立適格を有するか否かが問題となりやすいです。
処分の名宛人以外の者から審査請求がされた場合には、当該処分によって請求人の権利若しくは法律上保護された利益が侵害されたか否か、又は、当該処分によって請求人の権利若しくは法律上保護された利益が必然的に侵害されるおそれがあるか否かの観点から判断する必要があり、事実上の不利益が生じたにすぎない場合には不服申立適格は認められないとされています。

2.不服申立適格の具体例

下記の者については通常不服申立適格が認められると解されます。
他人名義の預金を滞納者の預金(借名預金) として差し押さえた場合に、その預金名義人が、 自己の財産権の侵害を理由として差押処分の取消しを求めて審査請求をしてきた場合
登記名義が滞納者の不動産を差し押さえたところ、第三者が当該不動産の所有権が自己にあるとして、当該差押処分の取消しを求めて審査請求をしてきた場合
❸公売に付した不動産の抵当権者が当該不動産の売却決定価額が低廉であると主張して当該売却決定処分の取消しを求めて審査請求をしてきた場合 (公売財産の見積価額が低廉であるために売却決定価額も低廉となったため、抵当権者の配当額が少なくなったなど)

また、破産管財人は、破産者に対する処分に対して、不服申立適格を有します
なお、債権差押処分をした場合に、被差押債権の債務者(第三債務者)に当該差押処分についての不服申立適格が認められるか否かについては、裁判例は判断が分かれているようですが、国税不服審判所は不服申立適格を認める取扱いをしています。

3.請求の利益

不服申立ての対象とする行政行為に行政処分性が認められ、請求人に不服申立適格が認められたとしても、狭義の不服申立ての利益(請求の利益)がなければ適法な不服申立てとはいえません。
この請求の利益とは、行政事件訴訟法9条1項の狭義の訴えの利益と同じであり、取消裁決によって除去すべき法的効果(当該処分を取り消してもらう必要性)が存在せず、また、取消裁決により回復される権利利益(当該処分の取消しの実効性)が存在しなければ、請求の利益は認められません。
したがって、既に処分が原処分庁によって取り消されている場合や他の処分によって不服申立ての対象とされた処分が取り消された場合と同じ効果が生じている場合には、請求の利益はないということになります。

4.請求の利益がないことの具体例

❶処分の不存在
差押えが解除されたため、審査請求時には既に処分が消滅している場合
・債権差押処分に係る債権の取立てを了したことにより、差押処分が目的を完了し、差押処分(の効力)が消滅した場合
❷処分は存在するが請求の利益がない場合
・納税の猶予不許可処分について、裁決時には納税の猶予申請に係る国税の本税が納付済みとなっており、その延滞税についても、納税の猶予を受けようとした期間を猶予期間とする換価の猶予がされた結果、納税の猶予が許可された場合の免除額に相当する額が免除されている場合
・督促処分に係る滞納国税が納付等により完納となった場合

5.不服申立期間

再調査の請求又は始審的審査請求は、処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日から起算して3月以内にしなければならないとされています。
しかし、徴収処分については、滞納処分手続の安定、かつ、換価手続により権利を取得し、又は利益を受けた者の保護を図る観点から、下記のとおり、国税徴収法171条に不服申立期間の特例が規定されています。
❶督促に欠陥があることを理由として処分の取消しを求める場合
差押えに係る通知を受けた日から起算して3月を経過した日まで
❷不動産等(不動産、船舶、航空機、 自動車、建設機械、小型船舶、債権又は電話加入権以外の無体財産権)についての差押えに欠陥があることを理由として処分の取消しを求める場合
公売期日等(公売期日及び随意契約の方法により売却する場合のその売却日まで
❸不動産等の公売公告から売却決定までの処分の欠陥を理由として処分の取消しを求める場合
換価財産の買受代金の納付期日まで
❹換価代金等の配当に欠陥があることを理由として配当処分の取消しを求める場合
換価代金等の交付期日まで

なお、上記❸及び❹の場合には、再調査の請求書又は始審的審査請求の場合の審査請求書が郵送等によって提出されたときは、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日に提出されたものとみなす国税通則法77条4項の規定は適用されないこととされています。
また、国税徴収法171条は執行手続の安定を目的とし、「通則法77条の規定にかかわらず」適用されるものですので、同条が適用される場合には、通則法77条1項ただし書(すなわち「正当な理由」による不服申立期間の特例)の適用はないと解されています。

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