1.申告の無効と徴収処分との関係
徴収事件においては、取消しを求める徴収処分の違法事由又は無効事由として、当該徴収処分に先行する申告の無効、課税処分の違法又は無効、他の徴収処分の違法又は無効が主張される場合が少なくありません。
同様の不服申立てとして、課税処分を争っているときに滞納処分を行うことは違法がある旨の主張がされる場合があるが、これは国税通則法105条1項の執行不停止の問題と整理されます。
徴収処分は、納付すべき税額が有効に確定していることを前提として行われるものですから、申告が無効である場合には、徴収すべき国税がないにもかかわらず、それがあるものとして行った徴収処分は、徴収すべき国税の存否についての認定判断を誤った暇疵(徴収処分固有の暇疵)がある処分として違法又は無効となります。
申告無効が主張されるのは、大別しますと、第三者が申告行為を行った場合と納税者の真意と異なる申告が行われた場合があり、具体的には、前者では、第三者の代理権の有無や無権代理行為の追認があったか否かが、後者では、錯誤、心裡留保や虚偽表示、申告の強要等が問題となります。
このうち、審査請求において多くみられるのは、申告が錯誤に基づくことを理由に申告無効を主張する事例であり、錯誤を理由として申告の無効を主張することができるかどうかについては、 「錯誤が客観的に明白かつ重大」であり、法の定めた是正方法(更正の請求)以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで申告書の記載内容の過誤を主張することはできないと解されており、国税不服審判所においても、この考え方を基に判断しているようです。
2.課税処分の無効と徴収処分との関係
徴収処分は、納付すべき税額が有効に確定していることを前提として行われるものですから、課税処分が無効である場合には、申告が無効である場合と同様に、当該課税処分によって徴収すべき国税の税額が有効に確定していることを前提として行った徴収処分は、違法又は無効となります。
一般に、行政処分が無効とされるのは、その処分に重大かつ明白な暇疵(違法)がある場合であり、課税処分の無効が主張された場合には、当該課税処分に重大かつ明白な暇疵があるといえるか否かを判断する必要があります。
調査・審理の結果、暇疵が軽微であるとか、暇疵が重大であるが外観上明白でないときは、当該課税処分の取消事由とはなっても、当該課税処分を無効な処分ということはできないでしょう。
なお、課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存在し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被処分者に当該処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められる例外的事情がある場合には、明白性の要件を充たさなくても無効となる余地がある最高裁判決(いわゆる根幹判決)があります。
3.違法性の承継
審査請求により取消しを求める徴収処分(徴収処分A) 自体には何ら違法な点はないものの、徴収処分Aの前提となる課税処分又は徴収処分Aに先行する徴収処分Bが違法であるとして、徴収処分Aの取消しを求めてきた場合が考えられます。
この場合、取消しを求める処分との関連を有し(その処分の前提となる場合が一般的でしょう)、当該処分に先行して行われた他の行政行為に違法事由が存在する場合に、先行行為の違法事由が後行処分の取消原因又は無効原因となるか否かという、違法性の承継について判断する必要があるでしょう。
この違法性の承継については、❶先行行為と後行処分が相結合して一つの効果の実現を目指し、これを完成するものであるときは違法性の承継を認め、❷相互に関連性を有するといってもそれぞれが別個の効果を目的とするものであるときは違法性の承継を認めない、とする考え方が通説のようです。
なお、先行行為が行政処分性を有しない場合には、先行行為の違法が後行処分の適否に影響を与えるか否かは、専ら後行処分の処分要件の解釈問題に解消されるので、違法性の承継の問題は生じないとされています。
また、先行処分と後行処分に共通する処分要件があり、この処分要件を欠くために先行処分が違法となる場合は、後行処分も当然に違法となりますが、これは後行処分自体の違法性の問題であって、これも違法性の承継の問題とはならないとされています。
さらに、有効な先行処分の存在が後行処分の処分要件となっている場合において、先行処分が重大かつ明白な違法を有していたため無効となる場合は、後行処分は当然に違法又は無効となりますが、これも後行処分自体の違法性の問題であって、違法性の承継の問題とはならないとされています。
こうしてみると、先行行為に行政処分性があり、後行処分の処分要件と先行処分の処分要件に共通性が認められず、かつ、先行処分が無効とはいえない場合に、先行行為と後行処分が相結合して一つの効果の実現を目指し、これを完成するものであるといえるか否かによって、違法性の承継の有無を判断することになると考えられます。