1.「当てはめ」欄
「基礎事実」欄等に記載した内容を「当てはめ」欄で引用する場合には、項目付番を記載しています。
そして、その際の記載方法としては、例えば「1の(1)のイのとおり・・・」又は「1⑴イのとおり・・・」などが考えられるところ、いずれの場合でも裁決書内で記載方法が不統一にならないよう留意しています。
2.「原処分の適法性について」欄
裁決書の主文が「棄却」の場合には、原処分が争点以外の要件を充足していることを記載した上で、原処分が適法であることを示す必要があり、「原処分の適法性について」欄は、そのことを記載するための場所です。
なお、一通の裁決書の中で複数の処分(例えば、法人税と消費税)を判断する場合は、各処分について適法性の判断を示すことになります。
課税事件(青色申告承認取消処分等は除かれます)にあっては、別表等を活用するなど原処分に係る税額(事件によっては、課税標準額等)が審判所認定額の範囲内であることを示すなどして、争点以外の課税要件を充足している事実を簡潔に記載し、徴収事件にあっても、争点以外の要件を充足していることを簡潔に記載します。
次に、総額主義である以上、審判所の審理では、当事者間で争点となっていない事項についても一応の審理をしなければならないことから、原処分について、争点以外の要件のうち上記で示した税額等の他に、例えば、理由の提示(理由付記)の妥当性や原処分が手続上の要件も充足していることなどを判断の締めくくりとして包括的に示すのが良いとされています。
したがって、原処分が税額等から要件を充足している旨の記載に続けて、「原処分のその他の部分については、審査請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。」と記載します。
なお、裁決書の主文が「全部取消し」の場合には、原処分が要件を充足していないことにより、その全部を取り消すことから、「その他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された
証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない」との記載は行いません。
3.記載例
⑴ 基本形
(本件更正処分の適法性について)
以上のとおり、・・・は・・・に該当するから、本件事業年度の所得金額の計算上・・・となる。
これに基づき算出した請求人の本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、別表○のとおりとなり、当審判所においても、本件事業年度の請求人の法人税額は、本件更正処分における請求人の法人税額と同額であると認められる。
また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件更正処分は適法である。
⑵ 一部取消しの場合
(本件更正処分の適法性について)
以上のとおり、・・・は・・・に該当するから、本件事業年度の所得金額の計算上・・・となる。
これに基づき、当審判所が認定した請求人の本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、別表○のとおりとなり、本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。
なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
⑶ 差押処分の場合
(本件差押処分の適法性について)
以上のとおり、争点1及び争点2について請求人の主張は採用できず、上記のとおり、本件差押処分は、国税徴収法第47条第1項の規定に基づきされている。
また、本件差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件差押処分は適法である。
4.「失当」という言葉について
判決書において「失当」という表現を見ることがあります。
「失当」の言葉の意味は、「当を得ていないこと」というものであり、訴訟の場面では、主張として当を得ていないという意味で、主張すること自体を否定するニュアンスを持っています。
しかし、審査請求の審理において、当事者から主張があった場合、要件事実に従って適切に主張を整理して判断していくべきものですから、主張すること自体を否定するような「失当」という言葉を裁決書に記載することは不適当であり、このような場合、例えば「請求人の主張の事実が認められたとしても上記結論を左右するものではない。」とか、「請求人の主張は、上記結論を左右するものではない」などのように記載するのが望ましいでしょう。
そうであるとはいえ、私が関与した事案においても、請求人によるお門違いな主張について、(担当審判官である私ではなく)裁判官である法規審査担当審判官が敢えて「失当」という言葉を用いて裁決書を発出した例がありました。
5.最高裁判決の引用
最高裁判決を引用する場合には、「(最高裁平成○年○月○日第○小法廷判決・民集○巻○号○頁参照)」のように記載し、出典を明記します。
また、判決を引用する場合は、引用箇所をかぎ括弧(「」)でくくって示すことになっており、「法令解釈」の項で時折その表現が見られると思います。
一方、高等裁判所以下の裁判例においては、審判所内部限りでどこから引用したかを示すために裁決書案に補記されることはあっても、外部に発出される(決裁された)裁決書において表現されることはありませんが、その文言を判例データベースなどで検索すると「あっ、この裁判例を参考にしたんだな」というのがわかるかもしれません。