1.国税不服審判所のパンフレット
国税不服審判所は、おおむね毎年の頻度でパンフレットを更新しており、そのデータが同所のホームページに掲載されています。
その令和元年8月版の2頁に国税不服審判所の特色が4点掲記されており、その冒頭に「争点主義的運営」の見出しとともに、「国税不服審判所は、審査請求人と処分を行った税務署長等の双方から事実関係や主張を聴き、争点に主眼を置いた調査・審理を行っています。」という説明が付されています。
この説明だけを読んでも「当たり前じゃないか」としか思われないかもしれませんが、訟務の世界では必ずしも当たり前ではないようです。
2.争点主義と総額主義
判例上、国税不服審判所が担当する審査請求の領域も、その上位に存する訴訟の領域も「総額主義」によって審理するとされています。
総額主義とは、「処分の同一性は処分によって確定された税額、すなわち、租税債務の同一性によって判断する」ことをいい、これから導出される確定処分に対する争訟の対象は、「確定された税額の適否」となります。
これに対する概念として争点主義があり、これは、「処分の同一性は処分理由の同一性によって判断する」ことをいい、これから導出される確定処分に対する争訟の対象は、「処分理由との関係における税額の適否」となります。
3.両者をブレイクダウンすると・・・
確かに、税法に関する処分は最終的には税額に表象されるものであり、総額主義は、理由はともかく、その者に課されるべき『税額』が妥当であれば(処分により認定された税額が、あるべき税額以下であれば)、処分は維持ということになります。
しかし、総額主義は、理由の差替えや追完を許容することにつながります。
原処分段階ではAという理由により増額更正をしたにもかかわらず、争訟の過程で、原処分庁が「Aという理由は取り下げるが、調査段階では指摘していないBという理由によって、結果的に原告(納税者)のあるべき税額は原処分認定額以上であることから、原処分は維持されるべきだ」という主張ができることになります。
一方、争点主義は、「原処分庁による処分の理由(A)が当たらなければ処分は取り消されるべき」という考え方であり、Aと関係のないBという理由の捕捉漏れは審理に影響を与えないことになります。
4.国税不服審判所のスタンス
国税不服審判所は納税者救済機関であり、「納税者の言うとおりAという理由が当たらないことは認めるが、審判所が職権調査をしたところ、別にBという課税漏れが判明したため、結果としてあるべき税額は原処分認定額以上となり、原処分維持(審査請求棄却)です」というスタンスでは、納税者が安心して権利救済を求めることができなくなってしまいます。
そこで、国税不服審判所は、たとえ審理の原則が総額主義であっても、以下の国税不服審判所創設時の参議院附帯決議を尊重して、「新たな調査を行う場合は『争点主義』で・原処分の適否は『総額主義』で」という争点主義的運営の考え方に基づいて審理を行っています。
「一、政府は、国税不服審判所の運営に当つては、その使命が納税者の権利救済にあることに則り、総額主義に偏することなく、争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきである。(参議院大蔵委員会 昭和四十五年三月二十四日)」