【0249】小規模宅地等の特例の変遷(その8)

1.1棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等の扱い

(【0248】に引き続き、小規模宅地等の特例について大改正があった平成22(2010)年度改正について解説しています。)
1棟の建物の敷地の一部が特定居住用宅地等に該当するときは、その1棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち、被相続人等の事業の用及び居住の用以外の用に供されていた部分は、この特例の対象となる宅地等に含まれ、敷地全体が特定居住用宅地等に該当するものとされていましたが、この規定が削除されました。
これにより、1棟の建物に被相続人等の居住部分(特定居住用宅地等の要件を満たす部分)と他の用途に供されている部分がある場合には、その1棟の建物の敷地については用途ごとに床面積の割合で按分してこの特例を適用することとなりました。

2.居住の用に供されていた宅地等が二以上ある場合

被相続人等が居住の用に供していた宅地等が二以上ある場合には、相続人の居住の継続という制度の趣旨から主として居住の用に供されていた一の宅地等に限るものと解されていましたが、それを法令の規定上も明確にするため、対象となる宅地等は次の宅地等であることが示されました。
被相続人の居住の用に供されていた宅地等が二以上ある場合 その被相続人が主としてその居住の用に供していた一の宅地等(❸を除く)
❷被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等が二以上ある場合(❸を除く) その親族が主としてその居住の用に供していた一の宅地等(その親族が二人以上ある場合には、その親族ごとにそれぞれ主としてその居住の用に供していた一の宅地等)
❸被相続人及びその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等が二以上ある場合
・その被相続人が主としてその居住の用に供していた一の宅地等とその親族が主としてその居住の用に供していた一の宅地等とが同一である場合 その一の宅地等
・上記以外の場合 その被相続人が主としてその居住の用に供していた一の宅地等及びその親族が主としてその居住の用に供していた一の宅地等
なお、上記の改正は一人の者の居住の用に供されていた宅地等は1ヶ所に限られるというものであり、要件を満たす親族が二人以上ある場合などは、限度面積要件の範囲内で合計2ヶ所の宅地等が特定居住用宅地等に該当する場合があります

3.特定同族会社事業用宅地等

相続開始の直前において被相続人及びその被相続人の親族その他その被相続人と特別の関係がある者が有する株式の数又は出資の額がその株式又は出資に係る法人の発行済株式の総数又は出資の総額の10分の5を超える法人の事業(貸付事業を除きます。)の用に供されていた宅地等で、その宅地等を相続又は遺贈により取得したその被相続人の親族(申告期限においてその法人の役員(清算人を除きます。)である者に限ります。)が、相続開始の時から申告期限(その親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続きその法人の事業の用に供されているもの(その法人(申告期限において清算中の法人を除きます。)の事業の用に供されていた宅地等のうち、要件を満たす親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限ります。)をいうこととされました。
この改正により、継続要件を満たさない小規模宅地等については、本特例の適用がないこととされました。
また、改正前は共有で取得した親族のうちに一人でも要件を満たす者がいる場合にはその宅地等の全体が特定同族会社事業用宅地等に該当するものとされていましたが、改正後は要件を満たす親族の持分に対応する部分のみが減額対象となりました。

4.貸付事業用宅地等

平成22年度の税制改正により、特定事業用宅地等以外の事業用宅地等については事業の継続性がないことに着目して特例の対象から除外することとされましたが、貸付事業の用に供されていた宅地等であっても継続要件を満たすものについては、従来どおり適用対象とすることとされました。
すなわち、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、次の❶又は❷に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(その親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に対応する部分に限ります。)については貸付事業用宅地等に該当し、200㎡を限度に50%の減額が適用されることとなりました。
❶その親族が、相続開始時から申告期限までの間にその宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、その貸付事業の用に供していること。
❷その被相続人の親族がその被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限(その親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続きその宅地等を自己の貸付事業の用に供していること
そして、❶又は❷のいずれかを満たしている場合に、200㎡を限度に50%の減額が適用されます。
なお、貸付事業用宅地等の範囲から特定同族会社事業用宅地等が除かれていますが、これは、特定同族会社事業用宅地等は被相続人等が同族会社に「貸し付けている宅地等」であることから、貸付事業用宅地等の規定との重複を排除し、特定同族会社事業用宅地等の規定が優先されることが明らかにされたものです。

5.適用時期

平成22(2010)年4月1日以後に相続又は遺贈により取得した小規模宅地等に係る相続税について適用され、平成22(2010)年3月31日以前に相続又は遺贈により取得した小規模宅地等に係る相続税については従来どおりとされました。
この大改正によって、概ね現在の小規模宅地等の特例の体系がデザインされたといって差し支えないものと思われます。
上記でご説明したとおり、かつては、一部でも80%減額の適用対象部分があれば、その宅地等の全体について80%の減額が可能であった時代がありましたが、その取扱いによって、作為的な遺産分割協議や宅地利用を招来することになり、この租税回避の穴を封じたことになります。
この改正と、その後の遺産に係る基礎控除額の縮減によって、相続税は一部富裕層だけに適用のある税制でなくなったといっても過言ではないでしょう。

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