1.令和元(2019)年度改正
特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等(その宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産等で、被相続人等が有していたものの相続開始の時の価額が、その宅地等の相続開始の時の価額の15%以上である場合(特定事業に該当する場合)を除きます。)が除外されました。
また、創設された個人の事業用資産についての納税猶予制度は、小規模宅地特例との選択制とされていますので、個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予制度の適用に係る贈与者から相続又は遺贈により取得をした特定事業用宅地等及び個人の事業用資産についての相続税の納税猶予制度の適用に係る被相続人から相続又は遺贈により取得をした特定事業用宅地等については、この小規模宅地特例を適用できない旨が明記されました。
更に、配偶者居住権に付随するその目的となっている建物の敷地を利用する権利(敷地利用権)については、「土地の上に存する権利」に該当するため、小規模宅地特例の対象となります。
そこで、小規模宅地特例を受けるものとしてその全部又は一部の選択をしようとする宅地等が配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される宅地等又は配偶者居住権に基づく敷地利用権の全部又は一部である場合には、その宅地等の面積は、その面積に、それぞれその敷地の用に供される宅地等の価額又はその敷地利用権の価額がこれらの価額の合計額のうちに占める割合を乗じて得た面積であるものとみなして計算をし、限度面積要件を判定することとされました。
2.適用時期
特定事業用宅地等の範囲の見直しと納税猶予制度の創設による所要の措置は、平成31(2019)年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用され、同日前に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税については、従前のとおりです。
ただし、特定事業用宅地等の範囲の見直しの改正について、平成31(2019)年4月1日前から事業の用に供されている宅地等については適用されません。
また、配偶者居住権の創設に伴う所要の措置は、配偶者居住権が創設される令和2(2020)年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用されます。
3.小規模宅地等の特例の改正内容を瞥見して
これまで11回にわたって見てきたように、小規模宅地等の特例は、遺族の生活保障という側面を重視して昭和50(1975)年度に個別通達から始まり、昭和58(1983)年度に租税特別措置法において新設され、政策面の配慮、他の特例との調整、租税回避行為の対応などに対応する形で現在に至ります。
私は平成6(1994)年の税理士試験において相続税法科目を受験しており、その前年から学習を開始していましたので、私が当初学習していた特例は上記の平成4(1992)年改正のものであり、それを基準としても大小15回の改正がなされていることになります。
本特例は、相続税を扱う税理士にとっては肝というべき重要な規定であり、同特例の適用の該非の判断は、課税価格及び税額に大きな影響を与え得るものです。
相続が開始された後に関与して本特例の適用の該非を判断するにせよ、生前対策から関与して本特例の適用可能性を見据えて提案するにせよ、本特例の理解は租税特別措置法関係通達の把握も含めて十全にしておきたいものです。