【0047】非常勤では経験が積めない

1.常勤であるが故の参入障壁

大阪国税不服審判所に奉職していた当時、近畿税理士会(本会・下京支部・宇治支部)・日本公認会計士協会(近畿会・京滋会・兵庫会)の研修会の講師として都合7回派遣され、国税不服審判所と国税不服審査制度の紹介をするための研修をしていたのですが、その研修会の終了後に私のところにお見えになる方は、皆さん「国税審判官って常勤の国家公務員でしょ?3年間、事務所を休業するわけにはいかないし。非常勤だったら是非ともやってみたいんだけど。」と仰います。

おそらく、「よく思い切ったね」という言葉を言いたいのでしょうが、目の前の本人にはとても言えなかったのでしょう。

確かに、民間登用の国税審判官は、任期中は常勤の国家公務員であり、各種の規制を受けます。

何より大きな規制は「副業禁止」であり、これによって、開業(社員)税理士が事務所を休業・廃業して審判所に飛び込むという選択肢は凡そ現実的ではなく、税理士法人・監査法人に所属していた税理士が、片道切符で任官し、審判所のキャリアを活かして転職するか独立するというケースが多くなります。

2.どんな人材を登用できるかによって審判所の能力が見透かされる

国税不服審判所では、担当審判官と2名の参加審判官の計3名が合議によって処理方針を決めます。

担当審判官は、その事案の処理のために主導的な役割を果たしますので、処分をした税務署や関係先に職権調査をしますし、請求人面談にも必ず出席しますが、参加審判官は、それに同行・同席することはあっても必ずしも義務ではなく、合議に参加して処理方針についての議決権がある存在ですので、もしかすると、将来的には、参加審判官であれば非常勤という勤務形態が許容される時が来るかもしれません。

特に、国税不服審判所本部は、「どんな人材を登用できるかによって、審判所の能力が見透かされる」との危機感を持っている(平成26事務年度の所長会議の議事録で当時の本部次長がこのように発言しています)ため、民間登用審判官の募集に力を入れており、応募者を増やすためには、多様な勤務形態を認めるということもあり得ます。

3.常勤であるが故に得られるもの

しかし、私は、たとえ各種の規制を受けるとしても、常勤勤務でしっかり審判所内部に溶け込んで調査審理に従事した方が絶対に良いと経験的に思います。

直前に資料をもらって、その書面だけを読んで合議に臨んでも、深い議論はできませんし、何より自分の体に染み込む経験にはなりません。

税理士が国税不服審判所に在籍することの醍醐味は、副産物的なものも含めていくつかありますが、何より、「法曹・国税の審理系ベテラン職員が居並ぶ中に身を置いて、常時議論ができる環境にあること」であり、自分が担当している事案に限らず、互いに相談し合い、議論し合い、知恵と経験を持ち寄って、あるべき方向に結論を収斂させるプロセスの内部に居るからこそ、今後の税理士業務にとっての貴重な経験になるのです。

しかも、その環境が官費(小規模税務署の署長級待遇)で用意されているのです。

4.税理士が国税組織に参入しやすくなるように

非常勤で月に1~2回合議に参加するだけでは、国税不服審判所に常勤していることによって得られるこの醍醐味を放棄することになり、退官しても税理士業務に活かすことができない(「将来の飯のタネ」にならない)でしょう。

また、審理経験が豊富な国税プロパー職員・私と同じような民間登用審判官(特に弁護士)のつながりもまた、常勤であることによって深耕することができます。

現在の税理士業務が3年間できなくなることを「キャリアの切断」と捉えられてしまうと、現行の仕組みでは敷居が高いままになってしまうのですが、私に限っては、40歳を過ぎて、こんなに新鮮で勉強になる3年間はなかった(まるで「官費留学」をしているかのようだった)ので、常勤という枠を守りながらも、兼業禁止の緩和といった、もう少し税理士が国税組織に参入しやすくなるような仕組みを取り入れてほしいと願っています。

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