1.国税審判法案の趣旨説明(つづき)
【0253】に引き続き、国税不服審判所の設置を含む国税不服申立制度の抜本的な改正に係る「国税通則法の一部を改正する法律案(政府案)」に対して、当時の野党が第61回国会に提出した対案である「国税審判法案」の提案理由と法案の概要についての提案者(日本社会党の広瀬秀吉議員)の発言(昭和44年5月7日)をご紹介します。
2.国税審判法案の概要
まず、第一に、この国税審判法案による制度の基本的な仕組みでありますが、内閣総理大臣の所轄のもとに国税に関する不服申し立ての処理機構たる国税審判庁を設置することとし、この国税審判庁による審判を、行政段階における租税救済制度の中心的な地位を占めるものといたしたのであります。
ただ、事案が簡易少額であるなどの事情から納税者が現行の制度によってより簡易迅速な処理を期待する場合も存することを考慮いたしまして、全面的にこの国税審判庁による審判の制度を強行するのでなく、現行の税務不服審査の制度のうち、二審的審査請求は廃止して、二審の段階ではすべて国税審判の権利の救済によって不服の救済を求めるべきことといたしますが、異議申し立ての制度と始審的審査請求の制度は存置し、すなわち、一審の段階ではこれらの制度と国税審判庁による審判の請求のいずれかを選択することができることといたしました。
第二は、国税審判庁の機構でありますが、国税審判庁は、中央国税審判庁及び地方国税審判庁とし、中央に中央国税審判庁を、地方には全国を通じて十一の地方国税審判庁を置き、さらに、所要の地に地方国税審判庁の支部を設けることといたします。各国税審判庁には、審判官、調査官及び事務官を置くことにしておるのであります。
第三は、審判請求先でありますが、国税庁長官のした処分に対する審判の請求は、中央国税審判庁に対し、国税局長、税務署長、税関長または登録免許税に関する登記、登録機関のした処分に対する審判の請求は、所轄の地方国税審判庁に対して行なうべきことといたしておりますが、しかし、その処分が、形式的には税務署長のした処分ではありますが、処分書に、その調査が国税庁の職員によってされた旨の記載がある場合及びその不服が国税庁長官の通達が法令に適合しないことを理由とするものである場合におきましては、すべて中央国税審判庁に対して審判の請求をすべきことといたしております。
第四は、審判の請求期間でありますが、これにつきましては、原則として、始審的審判の請求については、処分があったことを知った日の翌日から起算して二月以内、二審的審判の請求については、異議申し立てについて決定の通知を受けた日の翌日から起算して一月以内といたします。
第五といたしまして、審判権の行使の公正を確保いたしますため、審判官の除斥及び忌避の制度を設け、審判官が事件や当事者と特殊な関係がある場合におきましてはその職務の執行から除斥されるとし、また、審判官について審判の公正を妨げるべき事情があるときは審判請求人、処分庁または参加人はその審判官を忌避することができることといたしております。
第六は、審判の請求と国税の徴収との関係でありまして、これにつきましては、審判の請求は、処分の効力等を妨げないことといたしておりますが、審判請求人が滞納処分による差し押えをしないことを求めた場合には、審判の請求について明らかに理由がないと見られる場合及び繰り上げ請求の理由に該当する事実がある場合を除き、国税審判庁は、処分庁に対し差し押えをしないことを命じなければならないこととし、また、審判請求人が相当の担保を提供して差し押えの解除を求めた場合には、処分庁に対し差し押えの解除を命じなければならないことといたしております。
第七に、国税審判庁の裁決に不服がある処分庁は、その裁決を取り消さなければ著しく公益を害すると認めるときに限り、裁判所に出訴することができることといたしております。
第八に、事件関係人の審理期日における意見の陳述、証拠申し出の順序、国税審判庁の審理のための調査権等について、所要の規定を設けることといたしております。
以上が国税審判法案の提案の理由とその内容の概要でありますが、納税者の権利救済制度の根本的改革という問題は、周知のように、かねてからの国民的課題ともいうべきものであり、処分庁から完全に独立した純粋の第三者機関による権利救済制度の実現は、真に納税者の権利利益の救済を万全ならしめるものとしてこの国民的な課題の解決への大きな前進を意味するものであることは明らかであり、国税審判法の制定が必要であるゆえんがここに存することを深く認識していただきたいのであります。
国民の待望するこの国税審判法案につきまして、何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御賛成くださいますようお願いいたしまして、国税審判法案の趣旨説明を終わります。