1.国税審判法案の条文
国税不服審判所の設置を含む国税不服申立制度の抜本的な改正に係る「国税通則法の一部を改正する法律案(政府案)」に対して、当時の野党が第61回国会(昭和43年12月27日から昭和44年8月5日)に提出した対案である「国税審判法案」について、現在の国税不服申立制度と大きく異なる部分及び同法案において設置することとされていた「国税審判庁」の組織に係る部分をご紹介します。
2.第1条(この法律の目的)
この法律は、国税に係る行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に対する不服について、独立の国税審判庁が審判を行うこととする制度を設け、もって納税者の権利利益の救済を図り、あわせて税務行政の適正な執行に資することを目的とする。
(コメント)
現制度は国税通則法の一部として不服申立ての章立てがあるため、不服申立てについての目的の記載はありません。
「違法」のみならず「不当」な処分についても取消しの対象であることがわかり、これは現制度においてもそうであるところ、ここでいう「不当」とは、違法とまでは言えないが裁量権の不合理な行使のことをいい、例えば、税務署長に裁量の余地がある「青色申告承認取消処分」などが該当します。
現在の国税不服審判所の目的は「納税者の正当な権利利益の救済」と「税務行政の適正な運営の確保」であり、上記と概ね一致するところ、わざわざ「正当な」を付記していること自体、「何でも救済されるわけじゃないぞ。わきまえろよ。」という意思が窺えるようです。
3.第3条(設置)
内閣総理大臣の所轄の下に、国税審判庁を置く。
(コメント)
政府案は、国税庁の「附属機関」であり、現在は「特別の機関」という位置付けになってはいるものの、国税庁の組織の中にあることには変わりなく、外観的な独立性としては国税審判法案の方が進んでいたようです。
「国税審判庁」ということは「国税庁」と同格の位置付けを志向したのかもしれません。
4.第4章(種別)
国税審判庁は、中央国税審判庁及び地方国税審判庁の二とする。
2 中央国税審判庁は、東京都に置く。
3 地方国税審判庁の名称、位置及び管轄区域は、別表のとおりとする。
(コメント)
別表の管轄区域は、当時は沖縄県が本土復帰をしていない外は、現在の(国税局単位の)管轄区域と違いはありません。
名称は、例えば、現在の東京国税不服審判所は、国税審判法案が成立していれば東京地方国税審判庁という名称になっていました。
5.第7条(長官及び庁長)
中央国税審判庁に長官を、各地方国税審判庁に庁長を置く。
2 中央国税審判庁長官は、国税審判庁審判官の経歴を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
3 地方国税審判庁長は、国税審判庁審判官のうちから、内閣総理大臣が補する。
(コメント)
内閣直属機関であったことから内閣総理大臣が任命することになっていました。
現在の国税不服審判所長は、その設置の当時から、裁判官が(法務省から出向して)検事に転官の上で着任していますが、国税審判法案が成立していればどうなっていたのでしょう。
6.第8条(職権の行使)
審判官(中央国税審判庁長及び国税審判庁審判官をいう。以下同じ。)は、独立してその職権を行う。
(コメント)
現在の国税通則法に国税審判官の独立性について特に謳った条文はありません。
国税不服審判所長は担当審判官及び参加審判官(合議体)の議決に基づき裁決するという条文はあるものの、ここでいう「基づく」とは、合議体による議決を経るという意味であって、議決内容に拘束されるものではなく、国税不服審判所長の意に沿わない議決がなされれば「返戻(差戻し)」という手続きによって再度審理させることもできることから、やはり国税審判法案よりも後退したといえるのかも知れません。