【0259】幻の国税審判庁構想(その7・終わり)

1.第47条(本案の裁決)

審判の請求が理由がないときは、国税審判庁は、裁決で、当該審判の請求を棄却する。
2 処分(事実行為を除く。)についての審判の請求が理由があるときは、国税審判庁は、裁決で、当該処分の全部又は一部を取り消す。
3 事実行為についての審判の請求が理由があるときは、国税審判庁は、処分庁に対し当該事実行為の全部又は一部を撤廃すべきことを命ずるとともに、裁決で、その旨を宣言する。
4 処分が違法又は不当ではあるが、これを取消し、又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、審判請求人の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分を取り消し、又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、国税審判庁は、裁決で、当該審判の請求を棄却することができる。この場合には、国税審判庁は、裁決で、当該処分が違法又は不当であることを宣言しなければならない。
(コメント)
現在の国税通則法では、審査請求の対象は「国税に関する法律に基づく処分」であり、行政指導などの事実行為は含まれませんが、国税審判法案では事実行為について審判請求の対象であったことが読み取れます。
特徴的であるのは第4項であり、たとえ処分が違法又は不当であったとしても、審判請求人が救済されないケースがあることをわざわざ規定しています。
この第4項が具体的にどういったケースで適用され得るのかについてはよくわからないところ、例えば、取消ししてしまうと、同様の他の事案について更正の請求が群発して税務行政の執行が滞るといったケースでしょうか。
仮にそのようなケースによれば、裁決で当該処分が違法又は不当であることを宣言することにより、課税庁側で国民一律の救済を手当てすることを促すことを想定しているのかもしれません。

2.国税通則法修正案

国税不服審判所を設置する政府提出の国税通則法改正案に対して、当時の野党であった日本社会党が国税審判庁を設置する国税審判法案という対案を提出して並行審議を行っていたところ、その過程で与党が国税通則法の改正の修正案を提出して、それが昭和44年6月27日の衆議院大蔵委員会で可決されることになりました。
その際の附帯決議の趣旨説明の会議録をご紹介して国税審判庁構想に係る解説を終了します。

自由民主党、日本社会党、民主社会党、公明党を代表いたしまして、ただいま議決されました本案に対する附帯決議の趣旨説明を行ないます。
本法案は、国民の権利救済に関するきわめて重要な法案であります。
5月7日上程以来、約50日有余に及びまして、与野党全員の熱心な質問を行なってまいりました。社会党は、これに対しまして対案を出して、並行審議等を行なってまいりました。
本日、ここに質疑を終了いたしまして裁決を行なったわけでございますけれども、なおかつ、必ずしも十分な質疑が行われたり、あるいは与野党の完全な意見の一致がなされたわけではありません。
したがいまして、この法案の施行にあたりましては、このあとで述べます附帯決議にもありますように、ひとつぜひ今後の執行にあたって十分な配慮をしていただきたい。
また他日、本委員会におきましても、足らない部分の質疑等もあわせて行なってまいりたいと思っております。
それから、与野党一致の附帯決議をここで行なうわけでございますけれども、とかく附帯決議といいますと、この法案作成の過程、いわゆる立法府においてはわりあい高く評価をされますけれども、執行過程いわゆる行政府の段階におきましては、法案となりませんのでわりあい軽んぜられる、こういう傾向が強いわけであります。
しかし、この法案が実体法である、国民にきわめて直接影響力を持つ法案であるということをひとつ考えられまして、行政府におかれまして、この附帯決議を必ず実行するよう強く要望いたしまして、趣旨の説明をいたしたいと思います。
第一に、国税不服審判所は、裁決権を保持する点において、現行の協議団よりは確かに前進した制度というにやぶさかでないのでありますが、なお、依然として国税庁の付属機関であり、ことに、通達と異なる裁決や税務行政の先例となる裁決をするときは、国税庁長官の指示を受けなければならないというような拘束があり、権利救済機関としては、決して十全とはいえないのであります。
しかしながら、国税不服審判所が、やはり権利救済機関として、真に納税者の信頼と裁決の公正を期し得るためには、国税審判官等はつとめて民間の有能練達な適格者から起用し、また、執行機関との間の人事交流はなるべく避けるなど、国税不服審判所の人事構成及び運用については、その独立性を強めるように留意すべきであります。
さらにまた、本案審議の過程において、各委員から熱心に論議されたように、政府は、今後における社会、経済の進展に即応しつつ、国税庁から独立した租税審判制度の創設、出訴と不服申し立ての選択等についても、絶えず真剣な検討と努力を行なうべきことを要望するものであります。
第二に、政府は、国税不服審判所の運営にあたっては、次の点に十分配慮を行ない、納税者の権利救済の実現について万全を期すべきであります。
その一つは、裁判を受ける権利は、憲法上保障された国民の権利であり、訴えを提起したために、いかなる差別的取り扱いを受けないことは、きわめて当然のことであります。
不服申し立て制度は、裁判に前置された制度であり、権利救済制度としては、裁判と軌を一にするものでありますから、納税者がこの当然の権利を行使したがために、税務当局から差別的取り扱いを受けるようなことがあってはならないのであります。
政府は、この点につき、厳に適正な運営を確保するよう、税務官署の末端に至るまでこれを徹底させるべきであります。
その二つは、質問検査権の行使にあたっては、権利救済の趣旨に反しないよう十分配意すべきであります。
特に、国税不服審判所の職員は、その調査があくまでも権利救済を主眼とし、新たな脱税事実の発見のためではないことを厳に銘記の上、納税者の正当な権利救済の実現につとめるべきであります。
その三つは、納税者が審査請求にあたって自己の主張を十分に行ない得るためには、その前段階において、税務当局の処分または異議決定の理由が十分に明らかにされることが必要であります。
したがって、税務当局は、その処分または異議決定において付する理由をできる限り詳細に記載するようつとむべきであります。
第三に、国税不服審判所長は、国税庁長官が大蔵大臣の承認を受けて任命することとなっておりますが、その地位の重要性にかんがみ、大蔵大臣は、みずからが任命するのと同様に、積極的に取り計らい、実体的には大蔵大臣が任命したと同様にすべきであります。
第四に、本法の目的を達するためには、審判官等が、執行機関より独立して、その職務を厳正に行ない得ることが肝心であります。
このためには、政府は、国税審判官等の身分、処遇等について十分に配慮すべきであります。
第五に、協議団から国税不服審判所への移行に伴い、現在の協議団の職員はきわめて不安な状況のもとにあります。
したがって、本人の意に反する一方的配置転換や退職強要など、不利な取り扱いを受けることのないよう、十分に配意すべきであります。
第六に、現行法及び改正法においては、不服申し立てがあった場合に、必要があると認めるときは、申し立てによりまたは職権で、徴収を猶予し、または、滞納処分の続行を停止することができることになっておりますが、処分の執行を停止しないことにより生ずる不服申し立て人の有形無形の損害を考えるときは、なるべく運用面において、この点を緩和し、できる限り処分の執行を停止するよう措置すべきであります。
すなわち、納税者の不服に理由があると推測されるときには、支障のない限り、徴収を猶予し、または滞納処分の続行を停止することとし、納税者が自己の正当な権利を安んじて主張し得るよう、十分に配慮すべきであります。
以上が、本附帯決議案の趣旨及び内容でありますが、ぜひ御賛成を要望いたします。
なお、本附帯決議案文につきましては、お手元に配付されておりますので、朗読を省略させていただきたいと思います。(拍手)

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