1.閲覧等の範囲は拡大された
平成28年の行政不服審査法・国税通則法の改正前においても、審査請求人は、原処分庁が収集した税務調査関連資料を閲覧した上で主張立証の参考にすることができましたが、「❶原処分庁が国税不服審判所に任意に提出した資料」を「❷閲覧するのみ」であり、かなり不完全な制度設計でした。
2.閲覧の範囲
❶については、このほかに担当審判官が国税通則法97条に規定する職権によって資料を収集することができますが、それは対象外になるということです。
これを見越して、原処分庁は、❶を最小限の範囲に限定して国税不服審判所に提出した上で、担当審判官が原処分庁に職権調査に来た時には前広に開示して(原処分を維持してほしいから)職権収集させることで、審査請求人の閲覧の範囲を狭めようとしていた慣行がなくはありませんでした。
これが、❶のみならず、「❸担当審判官が職権で収集した資料」も対象に加わることになりました。
しかし、❸が閲覧対象になるのは審査請求人にとっては望ましいことでも、その資料の提供者(例えば第三者)は、「国税不服審判所限りであるから提供したのに、それ以外の者が閲覧するのは勘弁してほしい」という意向から資料提供に応じてくれないというケースがあり得て、調査審理の遂行に影響を来す可能性があります。
また、❸が閲覧対象になる場合、担当審判官は、その資料の提供者(例えば原処分庁)に「どの部分をマスキングしてほしいか」という意見を求める必要があり、不必要に広い範囲でマスキングされることによって、審査請求人のニーズに沿えないといったケースもあることから、マスキングの範囲について検討を加える時間まで考慮すると、実際に閲覧が可能になるまでに約1か月間を必要とすることになります。
3.閲覧と謄写
❷については、平成28年の制度改正までは「閲覧」しか認められておらず、「コピー(謄写)の請求」ができませんでした。
これにより、閲覧した資料の要点を任意の紙に引き写すというにわかに措信しづらい実務が行われていました。
そこで、閲覧のみならず謄写も可能となり、当初は閲覧請求のみをして、希望する場所を追って謄写請求することも可能になりました。
しかし、原則として1枚10円を必要とし、それを収入印紙の貼付によって納付することになることから、「1枚追加」といった場合にでも改めて近隣の郵便局に走ってもらうという納税者目線でない手続きになっています(デジタルカメラなどで撮影することは許可されますので、そういった場合はスマートフォンで撮影することになると思われます)。
4.原処分庁も可能になった
審査請求人にとってはこれまでの不便が解消されたことになりますが、実は、❸の閲覧謄写は原処分庁も可能です。
これは、閲覧謄写を規定する国税通則法第97条の3第1項前段の主語が「審理関係人」であって「審査請求人」ではないからです。
原処分庁が❸をどこまでこまめに閲覧謄写請求しているのかといった問題はありますが、より対審制が増す改正になっていることが窺えます。