【0086】国税職員の懲戒処分の量定

1.なぜ税務職員の不祥事は注目されるのか

ただでさえ公務員は国民の税金によって給与が支給されている立場ですので、不祥事を惹き起こした場合の国民の視線は厳しいものがありますが、自分の財産の一部を合法的とはいえ侵害する税務職員であればなおのことで、不祥事があれば新聞(最近はネットニュース)沙汰になるのが通常です。

内容によっては、例えば、
・今回の件は氷山の一角じゃないか
・真面目に税金を払うのが馬鹿みたい
・組織の体質が問題ではないか
・国民が増税に悲鳴を上げているのに良い身分だ
といった苦情や意見が寄せられ、全く関係のない他の進行中の税務調査や確定申告などの税務行政の運営にも少なからず影響を与えることがあり、そのとばっちりが何もしていない税務職員に降りかかることもあります。

2.国家公務員法などにおける処分の量定

「処分」には、国家公務員法に規定された「懲戒処分」と今後の改善・向上を図るための「矯正措置」があります。

「懲戒処分」の量定は、重い順番に以下のものがあります。
免職:職員の身分を剥奪し公務員関係から排除する処分
停職:1日以上1年以下の期間、職員としての身分を保有させたまま職務に従事させない処分
減給:1年以下の期間、俸給(基本給)の月額5分の1以下に相当する額を給与から減ずる処分
戒告:責任を確認し将来を戒める処分

また、「矯正措置」の量定も、重い順番に以下のものがあり、これは任命権者による部内処分という位置づけです。
訓告
厳重注意
注意

3.非行による実名報道

ただし、これらは民間企業でいう「会社からの処分」であって、公務員が犯罪で逮捕されると、ほぼ全てのケースで警察当局から実名で報道され、社会的な制裁を受けることが通常ですし、処分をした部局からも(軽微なものを除いて)公表されてしまいます。

更に、これは制度上の問題ではありませんが、一度インターネット上で実名報道されると、事実上消去することは不可能という「デジタルタトゥー」の影響を受けることになります。

4.税務職員ならではの非行事件

税務職員ならではの非行事件の典型は「収賄」ではないかと思います。

例えば、かつて、「国税OB税理士が関与する法人の税務調査に際して、同税理士に着手日を教示した上で、同税理士らと通謀し、同行していた調査担当者に売上除外額の一部のみをあえて把握させ、謝礼の趣旨で供与されることを認識しながら現金を受領した」という非行事件がありました。

これによって、国家公務員法違反に関連して、懲戒免職による「退職手当不支給」「定年までの給与逸失」「退職共済年金の逸失」「税理士登録の制限」といったことや、逮捕及び実名報道されることで「勾留・取調べ」「各種社会的制裁」「実刑判決」といった制裁を受忍しなければならなくなるでしょう。

5.最近の非行事件

ただし、非行事件に良い悪いはないとしても、以前であれば「収賄」などの税務職員の職務に関連した非行事件が大半であったところ、最近は「盗撮」「酩酊による迷惑行為」「職務時間中のネットトレーディング」といった税務職員や公務員に限定されない非行事件も多く、それを知った同僚が「非行事件でさえ質が劣化しているような」と思うことも多いようです。

例えば、私が国税審判官に任官された直後、以下のような報道がなされたことがありますが、税務行政に足を踏み入れたばかりの出来事だったために、当時の私の周りの税務職員の呆れようが特に印象に残っています。

2014年7月25日 日本経済新聞(抜粋)
国税の研修所で盗撮 容疑の元職員4人逮捕
千葉県警は24日、同県船橋市の税務大学校の研修所内で女性が着替える様子を撮影したなどとして、東京国税局の元職員4人を建造物侵入と軽犯罪法違反の疑いで逮捕した。
内部通報を受け、国税庁監察官が調査し発覚。東京国税局は2日付で、4人を懲戒免職処分とした。
逮捕したのは、いずれも無職のA容疑者(23)、少女(19)、B容疑者(22)、C容疑者(21)。

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