【0076】担当審判官は面談時にこんな配慮をしている

1.元審判所長講話

第18代(平成21年~23年)の大阪国税不服審判所長でいらした本多俊雄さんが、去る令和2年3月17日に大阪高裁部総括判事を最後に依願退官されました。

大阪国税不服審判所長退任後は、大阪地裁部総括判事、神戸地家裁尼崎支部長・尼崎簡裁判事、高松家裁所長、神戸家裁所長、神戸地裁所長、そして、大阪高裁部総括判事を歴任されたことになります。

本多元所長については、【0036(2020/1/1)】において「審判官の一挙手一投足をナーバスなほどに見ている」というお話をしていますが、今回は、大阪国税不服審判所長から転じられた大阪地裁部総括判事において調停の業務をされたときのエピソードについて、「元所長講話」として、平成24年1月27日に大阪国税不服審判所において講話された時のお話をご紹介します。

大阪国税不服審判所長在職当時は、「手続中のいろいろなことで当事者に不信を抱かせるようなことがあってはならない」と職員に訓示していた本多さんですが、本格的に当事者と面談して業務をする機会が5年ぶりだったこともあり、実際に現場に戻ってみると、当事者対応の難しさを実感されていました。

調停の当事者の中には、大きな被害を受けている人、隣人との争いが泥沼化している人など、深刻なトラブルを抱えている人が相当数いるそうで、その人たちを同じ日に一定時間ずつなり、交互に面接して話を聞いて調停を進めるのだそうですが、いくつかの失敗をしそうになったりしたそうです。

2.一方にくみしない

先に調停室に入った当事者の話を一生懸命聞くあまり、「なるほど」と思ってしまい、交代で入ってきた相手方に対して、その人の言い分を聞く前に、先に入った人の話を受けて、「どうしてそんなことをするのですか」などと、先に入った人の世界に取り込まれてしまったかのような姿勢で面談してしまうことに陥りやすいそうです。

こんな姿勢を示してしまうと、後に入った人は、裁判官や調停委員が自分の敵のように感じてしまい、信頼関係を結べなくなってしまうことは明らかですし、続けて聞く場合でも、すぐに後の人に入ってもらうのではなく、少し心の整理をしてから入ってもらうようにしていたそうです。

3.誤解を与える言動はしない

また、1時間ほど根を詰めて当事者の話を聞き、当事者が退室した直後に、2名の調停委員と裁判官とで、「今の話はどのように受け止めたか」という意見交換をすることがあるそうですが、その際に、それまで緊張して聞いていた反動で、少し軽い言葉が出ると、その軽い言葉に反応して笑ってしまうことがあるようです。

退室した当事者には聞こえていないかもしれないものの、「もし聞こえていたらどう思うだろう」と考えるとぞっとするそうで、「真剣に聞いてもらっていたと思っていたけれど、本心は馬鹿にしていたのか。それであんなに笑っているのだろう。」などと思われては元も子もありません。

4.代理人弁護士との間合いの取り方

さらに、裁判官として、業務以外の時には、弁護士のことを「〇〇先生」と呼ぶことがありますが、事件で弁護士が来るのは代理人としてであり、期日では「〇〇代理人」と呼べば良いものの、つい「〇〇先生」と呼んでしまうことがあるそうです。

双方に代理人弁護士がいる場面であれば良いものの、一方が本人訴訟の場合、相手方の弁護士を「〇〇先生」と呼んでしまうと、その本人は、「裁判官より相手の弁護士の方が偉いのか。裁判官は相手の言いなりではないか。」と受け取らないとも限りませんし、「先生」と呼ばないまでも、裁判官と相手方の弁護士が親しげな雰囲気を醸し出していれば、それだけで不信感を抱かせることにもなりかねないそうです。

5.服装にも気を遣う

そして、当事者にとっては、その期日に特別の思い入れがあり、これを受ける裁判所側も、服装を含めてきちんとした対応をしなければならないという意識も働くようです。

例えば、2年越しの事件で、調停委員会案を出し、双方がその返答をする期日が9月のことでしたが、通常ならば、夏季でも調停の期日にはできる限りスーツにネクタイ姿で対応していた本多さんですが、その日はたまたまクールビズの軽装で調停室に入りました。

調停の一方は10名程度の住民団体、相手方は会社でしたが、その住民の団体は、全員スーツ姿で、三つ揃いのスーツを着て臨んでいる人もいたようでしたが、住民側は、調停委員会の案を受諾し、長い紛争の解決の日であるということで、服装も堅く決めてきたのでした。

しかし、会社側は、直ちには受諾できないという回答で住民側は落胆するとともに、調停委員側の服装の略式さに、裁判所側のこの紛争解決に向けての姿勢を重ねたのではないかと思われたそうですが、そんな本多さんの予感のとおり、この事件はその後の再調整に手間取ることになったそうです。

6.当事者の納得

国税不服審判所は、調停のように、当事者の納得(妥結)が事件処理のための最重要のテーマではありませんが、税務紛争をここで終わらせるという観点からは、調停の場合と同様に、判断内容のみならず、当事者の納得を得るための審理手続や接遇の仕方などにおける中立性や第三者性など、判断権者に対する信頼を醸成することについても配慮しなければならないと本多さんは講話されていました。

他にも本多さんの大阪国税不服審判所における講話の議事録を拝見していたのですが、いずれも含蓄のあるお話ばかりで、私の審査請求人対応のお手本としてことあるごとに読み返していたものです。

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