1.平成26年当時の大阪国税局を取り巻く状況
私が国税審判官に任官された平成26年は、大阪国税局管轄の税務職員による贈収賄等の非行事件が比較的多く発生していました。
大阪国税不服審判所は大阪国税局と別の組織であるとはいえ、国税職員は相互に行き来してお互いに知り合いも多いためか、税務職員同士の会話では、そういった非行事件そのものの話やその職員に関する噂話などが共有されていたようです。
私のような外様職員には、そういった情報が直接入ってきづらいとはいえ、同じ執務室にいればいろいろな話を聞くことになります。
2.不祥事抑止のための予防講話
国税庁では、税務職員による非行事件を抑止するために「予防講話」という内部研修を定期的に開催しています。
税務署では総務課長や総務担当副署長が講師となり、署の会議室で行われているようですが、副署長以上である「指定官職」と呼ばれる幹部職員については、国税局の会議室に集まって、国税庁大阪派遣監察官室の首席監察官や他の監察官による講話を聴くことになります。
そういった中、平成27年11月11日、大阪国税局長自らが指定官職に向けて予防講話をする機会が設けられました。
前述のとおり、監察官室が行うが通常であるところ、局長自らが語り掛けるのは異例のことであり、周囲は「おそらく全国初ではないか」と言っているくらいでした。
そのくらいに、大阪国税局管轄の税務職員による非行事件の多発について、国税局長が危機感を抱いていたのでしょう。
国税審判官も指定官職であるため、局長講話を直接拝聴したかったのですが、たまたまその時間帯は審査請求人による面談の日程と重なり、その後、局長講話の速記録の回覧がありました。
3.国税局長が自ら伝えたかったこと
私の記憶の限りでは、要旨以下のような内容でした。
・国税庁人事課長・東京国税局総務課長などのこれまでの経歴から、非行絡みの話に長い間関わってきた経験を踏まえ、普通の講話では言わないようなことを含めて話をしたい。
・この2年間大きな不祥事が相次ぎ、大阪国税局に対する信頼が地に落ちているのが現状である。
・税収の大半はごく一般的な所得の人が納税することによって支えられているが、そういう人たちに「真面目に税金を払うのが馬鹿馬鹿しい」と思われると、財政にボディブローのように効いてくる・・・これが税務職員による非行の怖さである。
・意外と問題児と目される職員では大きな事件は起きず、むしろ、「なぜその人が?」というパターンが多く、ベテランや優績者でも起こる。
・定められているルールを遵守するのは大変で、「このくらいは大丈夫だ」という経験則に頼っているかもしれないが、そういった者は、少しずつアウトラインに進み最後の一線を超えても気が付かないことになるため、経験則を過信しないでほしい。
・そういった自分独自のルールが世間の常識と乖離しているから非行は起こり、世間の目にさらされたときに後悔することになる。
・例えば、利害関係者から食事を奢ってもらった時に、食事代が出せないほどお金が切迫していたかというとそうではないはずだが、そのくらいは大丈夫という意識が次第に取り返しのつかない事態を招く。
・人間は所詮弱いからこそルールを遵守させることで律しようとしている。
・自らの職場における踏み越えてはならないアウトラインは何かを意識しながら、自分を守り、部下も守ってほしい。
個別の非行事件についての言及がされていないため、抽象的・道徳的な話が多かったようですが、局長自ら登壇して直接幹部に語り掛けること自体が今回の講話の最大の目的だったのではないかと思います。