【0269】国税不服審判所の審査事務運営の基本的な考え方

1.基本的な考え方

国税不服審判所は、「争点主義的運営」「合議の充実」及び「納得の得られる裁決書の作成」の三点を事務運営の基本方針とし、適正かつ迅速な裁決を通じ、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資することを目的とする機関であること、しかも、執行機関である国税局や税務署から分離・独立した第三者的な立場で審査請求事件の適正・迅速な処理を行う権利救済機関であることを銘記し、次に掲げる事項に留意して、審査請求事件の公正妥当な処理を期することとされています。
・裁決は、税務の執行系統から独立した立場において、かつ、行政部内として最終的に行う判断であって、国税庁長官通達に示された法令の解釈と異なる解釈によって行うこともできるとされた制度の趣旨に鑑み、事件の審理及び議決に当たっては、その実態をよく把握し、個別的に妥当性のある結論を得るよう努めること。
・納税者の権利救済機関であることに鑑み、審査手続上の諸権利を尊重するとともに、その運用に当たっては、総額主義に偏することなく、争点主義の精神を生かして請求人等が十分にその主張を尽くし得るよう配意すること。
・審査手続における質問検査は、請求人の正当な権利利益の救済のためのものであって、新たな課税漏れ発見のためのものでないことを銘記し、それが濫用にわたらないよう慎重を期すること。
・合議体を構成する担当審判官及び参加審判官は、議決につきそれぞれ独立した権能が与えられている趣旨に鑑み、合議に当たっては、各人が十分に意見を開陳し、公正妥当な結論に到達するよう議を尽くすこと。
・事件処理に当たって慎重を期すべきことはもちろんであるが、迅速に権利利益の救済を図ることが行政不服審査制度の目的の一つでもあることに鑑み、事件の早期処理についても、十分配意すること。
・請求人が安んじて権利利益の救済を求められるよう、徴収の猶予、滞納処分の続行停止等の制度の趣旨を生かした措置を講ずるよう十分配意すること。

2.国税不服審判所長(本部所長)と首席国税審判官(支部所長)との関係

国税通則法98条により、裁決権者は国税不服審判所長(本部所長という)のみの固有の権限であり、法令上、この裁決権及びこれに関連する権限を他に委任することを許容する規定はないため、各支部の首席国税審判官(各地域国税不服審判所長のことであり支部所長という)に対しても、権限の委任はされていません。
このように裁決権等の権限の委任は行われていませんが、例えば、裁判例や先例裁決等によって既に統一した税法上の解釈が存在する事案等については、本部所長は支部所長に「内部委任」を行い、当該事件を処理させることとしています。
この「内部委任」とは、「専決」とも言われ、行政官庁の全く内部的な事務処理の使宜のために、その権限の行使を下級官庁(局長など内部部局の長、または地方支分部局の長など)に行わしめることをいいます。
この場合の権限の委任は内部的なものであって、その委任を受けた者は自己の名においてその権限を行使するのではなく、その権限は上級官庁の名において行使されます。
すなわち、審判所の裁決は、全て本部所長の名義で行われ、支部所長の名義で行われることはありません。
本部所長の裁決権は、支部所長に内部委任したに過ぎないから、本来の裁決権者である本部所長は裁決権を失わず、本部所長の判断によって自ら裁決を行うことができるほか、例えば、法令解釈を統-する必要があると認められるもの、ほかの先例になると認められるもの及び金額が非常に多額で問題が特に複雑な事案等本部所長の指示を仰ぐことがふさわしい事件については、本部照会事件及び相互審査事件の定めにより本部所長の判断を仰ぐことになっています。
国税通則法が本部所長にのみ固有の権限として裁決権を与えて、支部所長に権限の委任を認めないのは、本部所長に法令解釈の統一を図るという法解釈の整合性に関する責任を負わせるとともに、行政処分として裁決の責任の所在を明らかにしたものと解されています。
また、国税通則法99条により、国税庁長官の法令解釈と異なる解釈等による裁決をしようとする場合、あらかじめ国税庁長官に通知し、さらに、同条2項により、国税審議会に諮間する場合もあり得ます。
このような事案が想定される場合に、本部と支部が全国で一体の組織として行動することが想定されるためでもあります。

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