1.合議体の心構え
国税通則法第94条第1項の規定により担当審判官等が指定された以後の事件の調査及び審理は、合議体の合議による意思決定に基づいて行われるところ、合議体、担当審判官及び参加審判官は、次の事項に留意しなければならないとされています。
❶合議体
裁決は、税務の執行系続から独立した立場において、かつ、行政部内として最終的に行う判断であって、国税庁長官通達に示された国税通則法令の解釈と異なる解釈によって行うこともできるとされた制度の趣旨に鑑み、合議体は、事件の審理及び議決に当たっては、その実態をよく把握し、個別的に妥当性のある結論を得るよう努めなければならないとされています。
また、合議体を構成する担当審判官等は、議決につきそれぞれ独立した権能を与えられている趣旨に鑑み、合議に当たっては、各人が十分に意見を開陳し、公正妥当な結論に到達するよう議を尽くさなければなりません。
❷担当審判官
担当審判官は、合議体の中心又は代表として、事件の調査及び審理を推進し、合議を主宰する職責を有することから、常に調査及び審理の進捗状況を把握し、必要に応じて自ら実地に臨場して調査をするとともに、参加審判官との連絡を密にして適時に合議を開催し問題点等について十分に意見を交換して、調査及び審理の促進と充実に努めなければなりません。
また、担当審判官は、国税通則法第92条の2の規定により、簡易迅速かつ公正な審理の実現のため、事件の審理において、審理関係人と相互に協力するとともに、審理手続の計画的な進行を図らなければなりません。
❸参加審判官
参加審判官は、合議体の構成員として、事件の調査及び審理を行い、合議において積極的に意見を開陳して審理が尽くされるように努めなければなりません。
また、参加審判官は、国税通則法第97条第2項の規定により担当審判官の命を受けて、同条第1項第1号又は第3号に規定する質問又は検査を行う場合には、合議により決定された調査方針に従って行わなければなりません。
なお、担当審判官の命を受けて質問又は検査を行う参加審判官が分担者に対して調査の細目について指示する場合には、担当審判官の同意を得ることになります。
2.合議体による意思決定事項等
❶合議において、担当審判官が整理したところに基づいて争点を確定し、争点ごとに調査方針を決定します。
また、先の合議において確定した争点又は決定した調査方針について、変更し、又は追加することの適否を決定します。
なお、争点は、課税等要件、課税等要件事実及び各課税等要件事実に関する立証責任の所在について十分に認識して、速やかに、かつ、的確に確定し、また、争点確定後の調査及び審理は、計画的に行うことに留意することとされています。
❷国税通則法第104条第1項の規定により審理手続を併合し、若しくは分離し、又は同条第2項本文若しくは同条第4項の規定により併せて審理をすることの適否を決定します。
❸国税通則法第105条第4項に規定する徴収の猶予等について徴収の所轄庁に意見を求めること、及び徴収の猶予等を求めることの適否を決定します。
❹国税通則法第105条第5項の規定に基づき請求人から差押えの解除等を求められた場合において、当該解除等の許否を決定します。
❺国税通則法第105条第7項の規定に基づき徴収の所轄庁から徴収の猶予等の取消しについて同意を求められた場合において、当該同意の許否を決定します。
❻国税通則法第106条第4項の規定に基づく請求人の地位の承継の申請があった場合において、当該申請の許否を決定します。
❼国税通則法第109条第1項の規定に基づき同項に規定する利害関係人から参加の申請があった場合における当該申請の許否及び同条第2項の規定による参加の求めの適否について決定する。
❽留保事件に該当するか否かを決定します。
❾同席主張説明又は審理手続の計画的遂行に係る「意見の聴取」を実施するか否かを決定します。
❿争点及び争点関連事項について、職権調査を行った結果、争点外事項に係る新たな証拠を入手した場合の、その証拠の取扱いは次のとおりとなります。
争点外事項に係る新たな証拠は、請求人にとって有利なものと不利なものがあり、証拠入手の段階では、有利なものか不利なものか分からない場合もありますが、新たな証拠を入手した以上、それを放置することはできません。
したがって、争点外事項に係る新たな証拠について調査及び審理を進め、事実が確認し得る状況に至った場今、次のとおり対応することになります。
・請求人に有利な争点外事実であることが判明した場合
当該事実を必ず請求人に告げるとともに、原処分庁にも告げ、反論、反証の機会を与え、審理の対象として議決に取り込むこととする。
・争点外事項に係る新たな証拠が請求人に不利な争点外事実であることが判明した場合
まず、当該事実が、主文に影響を与える場合(例えば、一部取消しの金額が異なることになる場合)には、これを必ず請求人に告げ、反論、反証の機会を与え、審理の対象として議決に取り込みます。
一方、当該事実が、主文に影響を与えない場合(例えば、棄却の結論で変わらない場合)には、影響を与えないことが判明した時点で、調査及び審理を速やかに打ち切り、その不利な争点外事実を審理の対象として議決に取り込むことはしません(これを議決及び裁決の中に取り込むと、余事記載となるからです)。
・合議体が、当事者に争いがない事実とは異なる新たな事実を認定する場合において、当該事実が主文に影響を与えない場合であっても、合議体の判断の前提となる主要な事実であるときには、当事者にとって「不意打ち」となる可能性があることから、双方に十分な主張の機会を与えることとされています。
例えば、損失である所得に係る所得区分が争点となっており、当該所得の帰属が請求人であることについて当事者間に争いがない事件において、そもそも所得の帰属が請求人ではないという新たな事実を認定した上で、結果として審判所の認定した所得金額は原処分額と同額となるとの判断を行う場合などが該当します。
・原処分庁が、閲覧・写しの交付を求めることにより、この新たな証拠の存在を認識し、調査をせずに総額主義の観点から、請求人に不利な争点外事実を基に新たな主張をする場合があり得ますが、この場合、前記と同様に対応することになります。
なお、前記の場合(主文に影響を与える場合)は、処分理由の差し替えの問題が生ずる可能性があるところ、当分の間、特段の事情がある場合(争う上で請求人に格別の不利益が生じる場合、理由附記制度の趣旨を没却して制度を無意味ならしめる場合)以外は、処分理由の差し替えが許されるものであり、担当審判官等は、審理の対象として議決に取り込むこととし、これを必ず請求人に告げ、反論、反証の機会を与えるものとされています。
⓫国税通則法第97条の4の規定により審理手続を終結することの適否を決定します。
⓬事件について国税通則法第98条第4項に規定する裁決の基礎となる議決をします。
具体的には、合議において、「議決書」案、「事件検討表」等に基づき、原則として、主張及び争点、法令の解釈、事実の認定、法令の適用の順序で検討します。
この場合において、争点が2以上あるときは。論理的に先行決定を要する争点から順次多数決により決定(先行決定を要する争点についての決定を前提にして、次の争点について多数決により決定)する方法によって、議決の結論(却下、棄却、全部取消し、一部取消し又は変更)及び理由を決定します。
なお、複数の争点がある場合において、一の争点につき審査請求に係る処分の減額要因があり、他の争点につき当該処分の増額要因があるときは、当該処分に係る課税標準等又は税額等の総額により、当該処分の当否を判断します。
議決の結論は、国税通則法第98条第1項から第3項までに規定する裁決に準じ、次のとおりとされます。
・審査請求が法定の期間経過後にされたものである場合その他不適法である場合には、当該審査請求を却下します(国税通則法第92条の規定により当該審査請求の却下をする場合を除きます)。
・審査請求に理由がない場合には、当該審査請求を棄却します。
・審査請求に理由がある場合には、当該審査請求に係る処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更しますが、請求人の不利益に当該処分を変更することはできません。
⓭担当審判官等の各自が前記の議決に基づいて「議決書」案に修正等が施された後配付された「議決書」案について検討を終了した場合には、合議により当該「議決書」案を検討します。
⓮担当審判官等は、「議決書」案の検討終了後、担当審判官が作成する「議決書」に署名します。
ただし、合議体の審判官又は副審判官が、議決書に署名することにつき支障があるときは、他の審判官又は副審判官が議決書にその事由を付記して署名します。
⓯合議体は、議決後においても、裁決書の謄本が送達されるまでの間は、審理手続の再開や差戻しの定めがあることから、潜在的に存在しているとされていることに留意する必要があります。