【0278】審査請求の利益の有無

1.理由付記の不備・調査手続

たとえ国税通則法第75条第1項の「国税に関する法律に基づく処分」に該当する場合であっても、当該処分が請求人の権利又は法律上の利益を侵害していないときは、当該処分は審査請求の対象になりません。
したがって、請求人が審査請求の対象とした処分に係る審査請求の利益の有無について、形式審査において検討しなければならないことになります。
まず、国税に関する法律に基づく処分に係る理由付記の不備又は調査手続を違法原因の一つとして処分の取消しを求める場合には審査請求の利益があるとされます。

2.課税標準等及び税額等を変更しない更正処分

審査請求の利益はないとされます。
ただし、所得税法第154条第1項の規定に基づき同法第120条第1項第9号又は第10号に規定する事項(所得の種類等)を変更する更正処分の場合には、当該所得の種類等の変更が翌年分の予定納税額の基準額に変動を来すことがあることから、予定納税額の計算の基準日である5月15日までは審査請求の利益があります。

3.税額等と純損失等の金額とが競合する更正処分

一の更正処分において、納付すべき税額又は還付金の額に相当する税額の増減と、純損失等の金額の増減とがある場合の審査請求の利益の有無の関係性が問題となります。
納付すべき税額の増加又は還付金の額に相当する税額が減少の場合
純損失等の金額がどのような場合であっても請求の利益があるとされます。
納付すべき税額及び還付金の額に相当する税額のいずれも変動がない場合
純損失等の金額が増加するとき及び変動がないときには請求の利益がなく、減少するときには請求の利益があるとされます。
しかし、純損失等の金額に変動がないときでも、上記2.のただし書きに該当するときは請求の利益があります。
納付すべき税額の減少又は還付金の額に相当する税額の増加の場合
純損失等の金額が増加するとき及び変動がないときには請求の利益がなく、減少するときには請求の利益があるとされます。
ただし、いわゆる白色申告法人については、東京地裁平成15年11月27日判決があるものの、当該判決の判示内容には反対説もあり、審査請求の利益があるかどうかについては慎重に検討することになります。

4.更正処分と再更正処分とがある場合

例えば、申告額、更正処分額及び再更正処分額がそれぞれ次に掲げる関係にある場合の更正処分及び再更正処分の審査請求の利益の有無は、次のとおりです。
申告額<更正処分額<再更正処分額
更正処分及び再更正処分のいずれも審査請求の利益があるとされます。
更正処分額<申告額<再更正処分額
更正処分については審査請求の利益はなく、再更正処分については審査請求の利益があるとされます。
この場合において、請求人は更正処分額を上回る部分について、再更正処分の取消しを求めることができます。
更正処分額<再更正処分額<申告額
更正処分については審査請求の利益はなく、再更正処分については審査請求の利益があるとされます。
この場合において、請求人は更正処分額を上回る部分について、再更正処分の取消しを求めることができます。
申告額<再更正処分額<更正処分額
更正処分については審査請求の利益があるところ、再更正処分については審査請求の利益はありません。
なお、請求人が審査請求において更正処分の全部の取消しを求めている場合に再更正(減額更正)処分がされた場合には、再更正処分によって減額された部分(更正処分額と再更正処分額との差額)については審査請求の利益を欠くことから、請求人に対して再更正処分後の更正処分の全部(再更正処分額と申告額との差額)の取消しを求めるよう求釈明することになります。
申告額>更正処分額>再更正処分額
更正処分及び再更正処分のいずれも審査請求の利益はないとされます。

5.更正をすべき理由がない旨の通知処分と更正処分等とがある場合

例えば、申告額、更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分及び更正処分又は当該更正の請求の一部を認容する更正処分及び再更正処分がそれぞれ次に掲げる関係にある場合のこれら各処分の審査請求の利益の有無は、次のとおりとなります。
更正をすべき理由がない旨の通知処分後、更正(増額更正)処分がされた場合
更正をすべき理由がない旨の通知処分及び更正処分のいずれも審査請求の利益があるとされます。
なお、当該通知処分及び更正処分のいずれをも審査請求の対象としている場合には、請求人は、更正の請求額を上回る部分について、当該通知処分及び更正処分の取消しを求めることができます。
また、更正処分後に通知処分がされた場合も同様です。
更正の請求の一部を認容する更正処分後、申告額を上回る再更正処分がされた場合
更正処分及び再更正処分のいずれも審査請求の利益があるとされます。
なお、当該更正処分及び再更正処分のいずれをも審査請求の対象としている場合には、請求人は、更正の請求額を上回る部分について、当該更正処分及び再更正処分の取消しを求めることができます。

6.差押財産が自己の所有に属さないことを理由とする審査請求の場合

審査請求の利益の存否は、請求人の主張内容に左右されるものではないことから、滞納者が、差押財産が自己の所有に属さないことを理由に差押処分の取消しを求めて審査請求をした場合であっても。審査請求の利益があるとされます。
なお、差押財産が自己の所有に属さない旨の滞納者の主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするものであるから、当該理由をもって取消しを求めることはできないこととされています。

7.債権差押えに係る第三價務者からの審査請求の場合

審査請求の利益の存否は、請求人の主張内容に左右されるものではないことから、債権差押えに係る第三債務者が被差押債権の不存在又は消滅を主張して債権差押処分の取消しを求めて審査請求をした場合であっても、審査請求の利益があるとされます。
なお、被差押債権の不存在又は消滅は、差押処分の違法事由に当たらないとされています。

8.差押債権の取立て後の差押処分の取消しを求める利益

差押債権の取立て後の当該債権の差押処分の取消しを求める審査請求には、審査請求の利益はないとされています。

9.差押財産が自己の所有に属することを理由とする第三者からの審査請求

滞納者以外の者(差押処分の名宛人以外の者)が、差押財産が自己に帰属すると主張して差押処分の取消しを求める審査請求は、審査請求の利益があるとされています。

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