1.請求の利益
行政事件訴訟法第9条第1項括弧書きは、原告適格を有する者に「処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。」として、取消訴訟においては、原告適格とともに、いわゆる「請求の利益」が存在することが必要とされています。
不服申立てにおいても、行政事件訴訟法における請求の利益と同義のものが必要と解されています。
不服申立てを行う目的は、行政庁の違法な処分により権利利益が侵害されていると主張する不服申立人が、当該処分を取り消してもらうことにより当該処分の法律効果を遡及的に消滅させ、自己の権利利益の回復を図ることにあります。
取消しの再調査決定又は裁決によって除去すべき法律効果が存在せず、また、処分を取り消すことによって回復される権利利益が存在しない場合には、請求の利益は認められません。
2.不服申立て係属中に処分が取り消された場合
この場合には、処分の効力が消滅しており、取消しの再調査決定又は裁決によって除去すべき法律効果が存在しないため、請求の利益がないことになりますし、処分の一部が取り消された場合には、その取り消された部分についての請求の利益はないことになります。
国税不服審判所における審理が進行したところで、原処分庁が一方的に減額更正処分に及ぶことがあります。
これは、審理の経過によって自己に分が悪いことを察知し、国税不服審判所長による更正処分の取消裁決を受けてしまう前に、自ら拳を下ろしてしまうことですが、これによって審査請求人は請求の利益を喪失することになりますので、国税不服審判所は、審査請求人に対して、「原処分庁から減額更正処分が出ましたが、審査請求を取下げされますか?取下げがない場合には却下裁決になりますが。」という慫慂を行うことになります。
3.処分理由について不服を主張している場合
課税標準や税額については不利益処分の内容を承服しているのですが、処分の通知書に記載された処分の理由に納得できずに、不服申立てに及んでいる場合です。
請求人面談の機会において、審査請求人が担当審判官に対して、「私は、税額に文句があるわけではない!この理由がけしからんのだ!」という趣旨のお話を熱くされることがありますが、国税不服審判所としては、税額で争ってもらわなければ却下裁決を起案せざるを得なくなりますので、その旨を面談で申し上げることになります。
同様に、調査手続に不服があるとしても、更正・決定に係る課税標準及び税額について不服がない場合には請求の利益はありませんが、調査手続を違法原因として更正・決定に係る課税標準及び税額の取消しを求める場合には請求の利益があるとされます。
4.更正・決定後に修正申告された場合
更正・決定についての不服申立ては、その後に修正申告されたときは、当該修正申告によって、更正・決定により増額した納付すべき税額を含めて納付すべき税額が確定することになり、その限りにおいて、先にされた更正・決定は当該修正申告に吸収されて消滅しその存在意義が失われたと解されます。
よって、後日、審査請求人が修正申告した場合には、更正・決定内容を承服したものとして、その取消しを求める請求の利益は失われたものと解されます。