【0061】「令和元年度における審査請求の概要」の読み方

1.毎年6月後半に公表される

去る令和2年6月19日、国税不服審判所は、「令和元年度における審査請求の概要」を公表しました。

例年6月後半に、前会計年度の審査請求の発生状況と処理状況、認容割合、1年以内の処理件数割合などを公表しています。

2.発生状況

令和元年度は2,559件の審査請求が新たに発生していますが、これは「2,559枚の審査請求書が提出された」のではありません。

発生件数と後述の処理件数は、「処分件数ベース」であって、「審査請求人ベース」ではありません。

例えば、私が代理人をしている法人税の事案は、以下の処分が対象になっていますが、審査請求人ベースでは1件(社)でも、処分件数ベースでは7件となります。

・平成27年7月期から平成30年7月期までの法人税の更正処分
・平成28年7月期から平成30年7月期までの地方法人税(平成27年7月期の地方法人税は存在しなかった)の更正処分

令和元年度は(2,559件のうち)501件の法人税の審査請求が発生していますが、うち7件は上記1社の審査請求となりますので、法人税の審査請求人ベースは数十社ないし百数十社ということになります。

同様に、相続税・贈与税は135件発生しているところ、現在の相続税は、相続人のうちの1名のみの課税価格が増加してもその者以外の相続人の相続税額も幾分増加する仕組みになっていますが、課税価格が増加した者のみが審査請求をすれば「1件」であっても、税額が増加した全ての相続人が(共同)審査請求をすれば、被相続人がたとえ1人でも、「3件」になったり「5件」になったりします。

そうすると、135件といっても、被相続人ベースでは数十人ということになります。

このように、審査請求人ベースは、処分件数ベースよりも相当少なくなりますので、審査請求人ベースの発生件数は数百件(500件程度)というのが実際のところでしょう。

3.処理状況

同様に、令和元年度は2,846件の審査請求が処理されていますが、これは「2,846枚の裁決書が発出された」のではなく、審査請求人ベースでは年間数百件(500件程度)というのが実際のところでしょう。

そして、「全部認容(全部取消し)」が90件、「一部認容(一部取消し)」が285件となっていますが、これも処分件数ベースですので、審査請求人ベースでは全国で数十人ということになるでしょう。

4.認容割合

令和元年度は13.2%と平成30年度の7.4%より上昇しています。

それでも、8件に1件しかないのですが、これも処分件数ベースであり、審査請求人ベースでは、処分をされた複数件数のうち1件でも認容された者の割合はそれなりに高くなるものと思われます。

また、重加算税の処分取消しは、「過少申告(無申告)加算税を超える部分の取消し」となり、これは統計上は一部認容に含まれますので、一部認容であっても実質は全部認容というものもあります。

更に、「却下」「取下げ」の中には、実質的に審査請求人が勝った事案が含まれますが、それが認容割合には含まれません。

例えば、審理の過程で、原処分庁が負けを悟ると、裁決書が発出される前に自ら減額更正処分をして当初の処分を消してしまうことがあります(取消しの裁決書が発出されるのは汚点が残るからです)が、そうすると、審査請求人としては請求の利益が喪失するため、審査請求人を取り下げるか、取り下げなければ却下となります。

5.1年以内の処理件数割合

国税不服審判所は、審査請求がなされてから裁決書の謄本の発送までの期間が1年以内に収まるようにするという業績目標を掲げており、その達成状況を公表していますが、令和元年度は98.0%となりました。

移転価格税制といったヘビーな事案はそれなりに審理期間を必要としますし、全国ベースでなかなか100%の達成とはいかないものですが、これも処分件数ベースの公表ですので、同じ審査請求人で処分件数の多い審査請求があった場合に、その事案の裁決時期が遅延すると、処理件数割合が一気にネガティブな方向に作用することになって、国税不服審判所本部やその地域審判所の管理課はやきもきするといったことがあります。

このように、審査請求の統計情報には、その公表数値では読み取れない事実が含まれています。

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