【0063】国税不服申立て制度の歴史(シャウプ勧告)

1.ドッジラインとシャウプ勧告

戦後の我が国の経済は、生産の停滞とインフレーションの高進により混乱状態に陥り、この事態から一刻も早く脱却することが緊急課題となっていました。

昭和23年12月に、アメリカ政府は、日本の急速な経済復興を目的とする9原則からなる経済安定計画の実施を日本政府に要求するように、連合国最高司令官に指示するとともに、翌昭和24年2月には、この9原則の直接の指導者として、ジョセフ・ドッジ氏を派遣してきました。

その結果、昭和24年度は、「ドッジプラン」による財政収支の総合均衡予算政策が打ち出され、増大した支出についての財源は全て租税収入によることとしたため、計画されていた減税は全て取りやめになってしまいます。

このような財政、経済情勢の背景の中で、混乱状態にある税制についても全面的に再検討をする必要があるとされたことから、連合国最高司令官の要請により、昭和24年5月10日、アメリカのコロンビア大学教授カール・シャウプ博士を団長とする税制調査使節団が来日します。

シャウプ使節団は、約4か月にわたって日本の租税制度を調査研究し、同年9月15日、税制改革についての「シャウプ使節団日本税制報告書」(第一次勧告書)を発表しました。

2.第一次勧告書

シャウプ勧告の特色は、税制面では直接税中心主義を取り入れたことです。

所得の申告を正しく行うための記帳制度と、それを育成するための青色申告制度を導入し、法人税については、法人擬制説を取り入れ、更に、高額所得者に対する所得税の補完税としての富裕税と、企業経営の合理化を図ることを目的とした再評価税を新設することでした。

同時に、税務行政の面では、適正公平な税務行政が執行されるように、その改善を要望しています。

つまり、第一次勧告書の第1編第14章「所得税における納税協力、税務行政の執行ならびに訴願」の中で、通達の公開、納税貯蓄組合の結成、税務代理士制度の合理化、異議処理機構及び税務訴訟の改革などについて述べ、更に、更正・決定に対する異議申立ての処理機関として、税務署及び国税局単位に「協議団」を設置するよう要望しました。

3.協議団の設置勧告

第一次勧告書では「通常、異議申立は、かれの更正決定を行ったと同じ税務官吏に対してなされることから、(納税者の方から見れば)その官吏は同情をもって、且つ公平な立場でその訴えに耳をかさないだろう。」と述べ、納税者のこの不平に対処する必要があると指摘し、協議団において、原処分の調査に当たった税務職員とは別個の税の専門家によって、異議申立事案を第三者的並びに客観的立場で公平に審査することを期待するものであり、この協議団には有能で経験豊かな協議官を任命し、原処分と関係のない協議官の手によって審査が行われる制度を勧告したのです。

なお、このような第三者的機関による異議処理機関として「市民委員会」の構想も取り上げられて検討されたようですが、結論として、内職的な民間人による審査の制度では責任の所在がはっきりしないだけでなく、一部の納税者に「えこひいき」したり、「ボス」に支配されるおそれもあるとして、「市民委員会」を導入しないようにも勧告しています。

また、勧告では協議団の構成について、1名又は複数の協議官によって事案の審査が行われることとしており、必ずしも合議制を前提としたものではありませんでした。

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