【0184】審判所の設置について国会が注文したこと

1.附帯決議

「国税通則法の一部を改正する法律案」の可決に際し、衆議院及び参議院の両大蔵委員会において、この法律案に対して、要旨以下の内容に基づく附帯決議が行われました。

❶国税不服審判所の人的構成及び運用についての独立性の強化
❷納税者の権利救済の実現についての十分な配慮
❸総額主義に偏することなく、争点主義の精神を生かす運営の趣旨の徹底
❹納税者の不服に理由があると推測されるときにおける徴収の猶予等運用上の十分な配慮
❺国税審判官等に対する身分保障及び処遇等についての十分な配慮

2.昭和45年3月4日衆議院大蔵委員会

❶政府は、国税不服審判所の人的構成及び運用についてその独立性を強めるよう留意し、今後における社会、経済の進展に即応しつつ、国税庁から独立した租税審判制度の創設、出訴と不服申立ての選択等についても、絶えず真剣な検討と努力を行なうべきである。
❷政府は、国税不服審判所の運営に当たっては、次の点に十分配慮を行ない、納税者の権利救済の実現について万全を期すべきである。
・納税者がためらうことなく自己の権利救済を求め、その主張を十分行ない得るために、いやしくも税務当局が不服申立人を差別的に取り扱うようなことのないよう、厳に適正な運営を確保すること。
・質問検査権の行使に当たっては、権利救済の趣旨に反しないよう十分配慮すること。特に、国税不服審判所の職員は、その調査が新たな脱税事実の発見のためではないことを厳に銘記の上、納税者の正当な権利救済の実現に努めること。
なお、審査請求後、原処分庁が答弁書提出を理由として上記のごとき権利救済の趣旨に反する調査を行なうことのないよう、厳に留意すること。
・納税者が審査請求に当たって自己の主張を十分に行ないうるよう、税務当局はその処分又は異議決定において附する理由をできる限り詳細に記載するよう努めること。
❸大蔵大臣は、国税不服審判所長の任命についての承認に当たっては、自らが任命するのと同様に積極的に取りはからうべきである。
❹本法の目的を達成するため、国税審判官等がその職務の執行を厳正に行ない得るよう、その身分保障及び処遇等について十分に配慮すべきである。
❺新制度への移行に伴う人事配置に当たっては、現在の協議団の職員が不利な取り扱いを受けないよう十分に配慮すべきである。
❻納税者が自己の正当な権利を安んじて主張しうるよう、納税者の不服に理由があると推測されるときは、支障のない限り、徴収を猶予し又は滞納処分の続行を停止する等運用上十分に配慮すべきである。
❼(略)

3.昭和45年3月24日参議院大蔵委員会

❶政府は、国税不服審判所の人的構成及び運用について、その独立性を高めることに留意し、また今後における社会、経済の進展に即応しつつ、国税庁から独立した租税審判制度の創設、出訴と不服申立ての選択についても、絶えず検討を行なうべきである。
❷政府は、国税不服審判所の運営に当っては、その使命が納税者の権利救済にあることに則り、総額主義に偏することなく、争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきである。
❸政府は、不服審査における質問検査権の行使に当って、審査請求段階の国税不服審判所のみならず、異議申立て段階の税務署等の不服申立てにおいても、それが納税者の権利救済の目的にあることにかんがみ、濫用の弊に陥ることのないよう慎重な配慮を行なうべきである。
❹政府は、不服審査の根本的解決が、納税者と税務当局との相互信頼関係に基づくものであることを銘記し、税務行政執行に当っては、悪質な脱税には厳正に、善意の納税者には寛容に対処し、適正な課税の実現に一層努めるべきである。

現在の国税不服審判所のパンフレットなどでよく用いられる国税不服審判所の特徴を説明した文言は、この国会附帯決議から導かれていることが多いです。

4.争点主義的運営

上記でもっとも大事な点は3.❷でしょう。
国税不服審判所は納税者救済機関であり、「納税者の言うとおりAという理由が当たらないことは認めるが、審判所が職権調査をしたところ、別にBという課税漏れが判明したため、結果としてあるべき税額は原処分認定額以上となり、原処分維持(審査請求棄却)です」というスタンスでは、納税者が安心して権利救済を求めることができなくなってしまいます。
そこで、国税不服審判所は、たとえ審理の原則が総額主義であっても、上記の国税不服審判所創設時の参議院附帯決議を尊重して、「新たな調査を行う場合は『争点主義』で・原処分の適否は『総額主義』で」という争点主義的運営の考え方に基づいて審理を行っています。

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