1.争点の確認表
国税不服審判所は、以下を目的として、審査請求人及び原処分庁に対して「争点の確認表」を交付する運用を行っています。
・担当審判官が争点を正確に把握しているか否かの確認を得ること。
・審査請求人及び原処分庁が争点の認識を共有すること
「争点の確認表」は、担当審判官が、審査請求人及び原処分庁の主張を的確に把握し、主張を整理して、最終的に裁決書に記載すべき課税等要件に基づき争点を明確にし、適正かつ迅速な裁決に資するために作成するものとされています。
裁判においては、当事者から提示された書証・準備書面に基づいて関係者全員で議論をして争点を整理するという方法で審理が進められますがが、国税不服審判所においては、担当審判官が主体になって、当事者に釈明を求めるなどの方法により争点を確定していくものであり、担当審判官は、確定した争点の確認手続のために、審理のために争点を当事者に示して主張立証を促すべき場合もあることから、「争点の確認表」の交付は有効な施策であるとされています。
また、当事者の主張及び争点は、審査請求書や答弁書等の主張に関する書面が提出された場合や、審理関係人面談等を実施した場合など、審理手続の進行状況に応じて作成していくことから、その内容も調査及び審理の進行状況によって、追加、変更していく性質があります。
この点、「争点の確認表」は、審理手続の各段階で作成・交付し、適時、審査請求人及び原処分庁に確認を受けていくことを想定していますが、実務的には、審理手続の終結の前段階で実施されることが多く、最終的にはこの時点の「争点の確認表」により整理された争点等が裁決書に反映されることになります。
なお、送付した「争点の確認表」について、当事者から加除等訂正の指摘があった場合は、担当審判官は主体的に整理(採否を判断)し、争点の明確化、確定に努めることが求められます。
2.争点の確認書の様式
「争点の確認表」には、大要以下の項目が記載されることになっていますが、これら以外にも、「当事者間で争いがないと思われる事実関係」が記載されます。
・争われている原処分
・争点
・争点に対する当事者双方の主張
あくまで、担当審判官が主張整理した交付時点のものであり、審査請求人としては、自らが重要と考えるものが記載されていない、又は、記載されているが正確ではないというような場合には、担当審判官にその旨を連絡し、主張が正確に伝わっているか否かを確認しておくことが求められます。
また、確認範囲としては、どうしても自らの主張、すなわち「審査請求人」の「主張」のみを確認して了を伝達してしまう傾向がありますが、以下の理由から、記載されている「事実関係」や相手方である「原処分庁の主張」を含めて、全体内容を確認しておく必要があります。
3.見る人が見れば趨勢がわかる
担当審判官は、審査請求人からの審査請求書、原処分庁からの答弁書をそのまま引き写して「争点の確認表」を作成しているのではありません。
また、審理関係人双方に「争点の確認表」の確認を受けてから、真っ新の状態でいずれに軍配を挙げるかについての判断を行うものでもありません。
つまり、「争点の確認表」は、その作成時点において、担当審判官としてはいずれに軍配を挙げるかについての心証が既に形成されていることが多く、「争点の確認表」の記載内容を裁決書の前半部分に落とし込んだ場合に、その後半部分で国税不服審判所が判断しやすい、踏み込んでいえば、負けさせる側の主張の排斥がしやすいように加工されて作成されているという側面が否定できません。
担当審判官としては、勝たせる側の主張については負けさせる側に比して、さほど気を遣いません。
なぜなら、裁決書上は勝たせる側の主張を取り上げて吟味する機会が乏しいからであり、むしろ、法規審査から「審理不尽」と指摘されないために、負けさせる側の主張が認容されないことについての説示に相当程度気を遣います。
そうすると、「争点の確認表」に記載されている審理関係人双方の主張について、その出典(審査請求書・答弁書・反論書・意見書・求釈明事項回答書等)を確認した場合に、
・ある一方の側の主張が、他方の側の主張に比して大きく加工されている。
・ある一方の側の主張が、過去の類似の裁判例・裁決事例における法令解釈に当てはめやすいように表現が見直されている。
といったときには、その加工されている側の主張については、裁決書において負けさせる側の主張を排斥しやすいような環境設定をしている可能性があります。
そういった点で、見る人が見れば、審理手続終結前とはいえども、国税不服審判所がいずれを勝たせたいか(負けさせたいか)について察しがつくことがあるのです。
仮に、「審査請求人を負けさせようとしている」と察した場合には、主張の補充・変更等を検討しなければならないでしょう。
このように、「争点の確認表」は、審査請求書の提出から裁決書謄本の発送までの一連の審理手続の一里塚であるといえども、その判断の趨勢を見極める重要な機会となるのです。