【0119】審判所パンフレットの「争点主義的運営」ってどういうこと?

1.国会の附帯決議の要請

国税不服審判所のパンフレットである「審判所ってどんなところ? 国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし」(令和2年8月)には、以下の記載があります。
「国税不服審判所は、審査請求人と処分を行った税務署長等の双方から事実関係や主張を聴き、争点に主眼を置いた調査・審理を行っています。」
文章にすると「当たり前じゃないか」と思われてしまいそうですが、これは、以下の考え方を踏まえると理解していただけると思います。
国税不服審判所の事務運営指針である「審査事務提要」には3つの事務運営の基本方針が示され、その1つとして「争点主義的運営」が掲げられています。
これは、国税不服審判所の設置が法定された昭和45年度の国税通則法の改正時になされた「政府は、国税不服審判所の運営に当っては、その使命が納税者の権利救済にあることに則り、総額主義に偏することなく、争点主義の精神をいかし、その趣旨徹底に遺憾なきを期すべきである。」旨の参議院大蔵委員会の附帯決議を踏まえているとされています。

2.総額主義と争点主義

不服申立てに係る審理の対象の範囲については以下の2つの考え方があり判例及び訟務実務としては前者であるとされています。

❶原処分庁の課税処分によって確定された税額が、処分時に客観的に存在した税額(あるべき税額)を上回るか否かを判断するために必要な事項の全てに及ぶとする「総額主義」
❷原処分庁が行った課税処分の理由との関係における税額の適否とする「争点主義」

「争点主義的運営」はこの両者を混合させたような概念です。
国税不服審判所が納税者の権利救済機関であることを踏まえると、税務調査によって論点とならなかった事項(争点外事項)を掘り起こすのでは必ずしも適当ではありません
むしろ、原処分の適否について新たに行う調査は争点及び争点関連事項の範囲にとどめ、争点外事項については、原則として新たな調査を行わないこととする調査・審理方針を「争点主義的運営」といっているのです。

3.国税不服審判所の理論的支柱の考え方

国税不服審判所創設時の制度設計、そして、設立後には大阪国税不服審判所の(実質的な)初代の審理部部長審判官として理論的支柱を担った南博方さんの書籍「租税争訟の理論と実際(増補版)(弘文堂)」には、以下の解説があります。

「理論上は総額主義、運営は争点主義で」というのはいかなる意味であろうか。
結論からいえば、「新たな調査は争点で、審理は総額で」ということにほかならない。
すなわち、
❶審判所における新たな調査は、争点および争点関連事項から入って、争点および争点関連事項の範囲にとどまる。
❷争点外事項については原則として改めて新たな調査を行わない。
❸右の争点調査資料と原処分庁による調査資料とによって、原処分の全体(総額)の当否を審理判断する。
ということである。

そもそも争点主義的運営が要請されるのは、つぎのような理由によるものである。
❶原処分を補強し、これを維持する理由を発見するために新たな事実を探し回っているのではないかとの疑いをさけるため。
❷不服申立てを契機として新たな調査がなされ、不服申立前より悪い状態におかれることがあってはならないため。
❸権利救済のみちを開く以上、伸び伸びと安んじて権利保護を受けうるものでなければならないため。
❹総額的な調査を審判所に強いることは、審査機関としての能力と責任とを超えるものであるため。

争点主義が要請される理由が、右のような諸点にあるとすれば、それはいずれも調査の問題、すなわち、調査の入り方、調査の範囲とその深度の問題であることが理解されねばならない。

「理論は総額主義、運営は争点主義でということは、要するに、「新たな調査は争点で、審理は総額で」という意味にほかならない。

税務判断なら当事務所へ
お気軽にお問い合わせください

2024年11月
« 10月    
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930