【0092】民間出身国税審判官の或る日の日記(その2)

1.平成26年7月11日(任官2日目)

直接神戸支所に通勤する初日、新快速の始発では始業ギリギリなのでそれよりも早い電車に乗るが、快速しかないので余計に時間がかかる。
神戸駅に8:06に着いたが、いささか遅れる傾向にあることや、徒歩で15分程度かかるため、8:30の始業に余裕を持って到着した感じはしない。

(補足)
3年間を通して、税務職員は皆さん遠距離通勤されている印象がありました。
1日の所定労働時間は7時間45分であり、始業・終業時刻は15分単位で前後させることができるようですが、原則として審判所支所は庁舎内税務署に合わせて8:30始業17:00終業となっています。

自分の席の横に位置して自分とペアになる審査官が着任するが特段会話はなし。

(補足)
その審査官は、私よりも5歳年上の資産課税系統出身者で、出世ルートである国税局総務部人事課勤務を経て、既に小規模税務署の総務課長を経験し、直近は国税局課税部資料調査課の総括主査をしていました。
ただ、向こうも民間(公認会計士・税理士)出身の年下上司との間合いがわからず、こちらも国税プロパーの年上部下との扱い方がつかめず、打ち解けるまでに少し時間がかかったかもしれません。

午前は事件引継につき総括審判官に確認していたが、10:20に大阪本所に出発。
11:30に到着して12:00より審判所長(総務係長随行)とイタリアンレストランで会食。
所長は裁判官であるせいか、もう2人の弁護士出身審判官との話は合うようであり、自分は些か疎外感を覚える。
「行政判断である裁決」と「裁判の判決」の違いなどで、所長自身も苦悩しているような印象を受けた。

(補足)
国税職員は人事異動の一環として審判所に赴任しますが、民間出身国税審判官は初めての公務員ということもあり、瀧華聡之大阪審判所長(現在の大津地裁所長)が気を配っていただいたようで、このような会食の機会を設けていただきました。
大阪審判所長は京阪神の地方裁判所の租税行政事件の裁判長経験者の着任が多いようですが、やはり「弁護士」と「公認会計士・税理士」では、前者の方が話をしやすいようでしたし、私も裁判官と何を話して良いやらわかりませんでした。
裁判官は憲法76条3項の「良心に従ひ独立して・・・憲法及び法律にのみ拘束される」存在ですが、国税不服審判所はあくまで税務行政部内であり、行政判断の全国統一性の配慮から、自らの判断を押し通せない局面があるようなお話だったと記憶しています。

午後は簡単な健康診断の後、管理係長による審判所の入職するに当たっての導入研修。
処理件数ベースはそれなりだが、属人ベースはかなり少なく「時間がゆっくり流れている」という審判官経験者の言葉の意味が分かる。
同期の弁護士出身審判官の「国税庁と国税局ってどう違うのか?」という質問に目が点になる。

(補足)
国税不服審判所から公表される審査請求件数・処理件数は処分件数ベースですが、例えば3事業年度分の法人税・地方法人税・消費税・地方消費税の全てについて取消しを求めるとなると、審査請求人は1人であっても係属件数は12件になります。
採用の内々定を得た時に周囲に相談できる方がおらず、「国税審判官 大阪」でネット検索し、既に退官された弁護士のホームページにヒットし、「話をお聞かせいただきたいのですが・・・」と菓子折りを持って伺ったことがあります。

16:00過ぎから民間出身国税審判官の先輩との懇談会。

(補足)
当時の大阪審判所には民間出身国税審判官が9名おり、弁護士5名・公認会計士3名(私を含む)・税理士1名の構成でした。
この税理士1名は、後に東京地裁で初めての税理士出身の裁判所調査官となる林由美子さんです。
先輩方でもありながら退官後も見据えれば貴重な仲間でもあり、現在も親しくお付き合いさせていただいています。

17:00より所長室で1対1の面談があり、業務上相談したいときの窓口等についての話を受けた。
「弁護士・裁判官の論理思考が最も国税出身者の刺激となるからであり。国税出身者と似たような思考を持つ税理士の任官は少ないのではないか。」とのコメントが印象的だった。

(補足)
審判所長と1対1でお話する機会はなかなかないので、思い切って「国税審判官は国税に関する官職であるのに、なぜ弁護士出身者が多いのか」と聞いてみたところ、上記のようなお答えをいただきました。
当時は「そんなものかなぁ」という印象でしたが、経験を重ねるに連れて大いに首肯するようになりました。
例えば、審判所で原処分を維持した場合に、その審判所の判断が裁判所でどのような評価を受けるのか(審判所の判断を維持するのか)について、その見通しができる方の発言権が高くなることは致し方ないことであり、それはやはり裁判官であり、その次に弁護士ということになります。
国税審判官が国税に関する官職であるといえども、「ひと通り申告書を書ける」「税法を知っている」というだけでは、その職能を発揮することはできないからです。

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