1.「懲戒処分の指針について」
国家公務員は、日本国憲法で「国民全体の奉仕者」と定められ、職務の遂行に当たっては中立・公正性が強く求められます。
このため、国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関として、設けられたのが人事院です。
人事院の事務総長通知に「懲戒処分の指針について」というものがあり、当然ながら国税職員にも適用されますが、国税職員は合法ながら国民の財産を侵して税金を徴収する立場の国家公務員であり、その者が犯した不祥事には国民の厳しい視線が注がれているといっても過言ではありません。
それでは、どういった不祥事を犯せばどの程度の懲戒を受けることになるのでしょうか。
2.処分の量定判断における考慮事項
この指針は、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げているものですが、具体的な処分量定の決定に当たっては、以下を例とする視点のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上で判断されます。
① 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか
② 故意又は過失の度合いはどの程度であったか
③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか
④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか
⑤ 過去に非違行為を行っているか
また、個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るところ、例えば、以下のような場合には、標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられます。
① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき
② 非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき
③ 非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき
④ 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき
⑤ 処分の対象となり得る複数の異なる非違行為を行っていたとき
その一方、例えば、以下のような場合には、標準例に掲げる処分の種類より軽いものとすることが考えられます。
① 職員が自らの非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき
② 非違行為を行うに至った経緯その他の情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき
なお、標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断することになります。
3.一般服務関係
3.~7.に共通して、懲戒処分は以下の順番に重くなります。
・戒告:責任を確認し将来を戒める処分
・減給:1年以下の期間、俸給の月額5分の1以下に相当する額を給与から減ずる処分
・停職:1日以上1年以下の期間、職員としての身分を保有させたまま職務に従事させない処分
・免職:職員の身分を剥奪し公務員関係から排除する処分
① 欠勤
・10日以内:減給又は戒告 ・11日以上20日以内:停職又は減給 ・21日以上:免職又は停職
② 遅刻・早退:戒告
③ 休暇の虚偽申請:減給又は戒告
④ 勤務態度不良:減給又は戒告
⑤ 職場内秩序を乱す行為
・暴行:停職又は減給 ・暴言:減給又は戒告
⑥ 虚偽報告:減給又は戒告
⑦ 違法な職員団体活動(略)
⑧ 秘密漏えい
・職務上知ることのできた秘密を故意に漏らし公務の運営に重大な支障を生じさせた場合:免職又は停職(自己の不正な利益を図る目的で秘密を漏らした場合:免職)
・具体的に命令され又は注意喚起された情報セキュリティ対策を怠ったことにより職務上の秘密が漏えいし公務の運営に重大な支障を生じさせた場合:停職、減給又は戒告
⑨ 政治的目的を有する文書の配布:戒告
⑩ 兼業の承認等を得る手続のけ怠:減給又は戒告
⑪ 入札談合等に関与する行為(略)
⑫ 個人の秘密情報の目的外収集:減給又は戒告
⑬ 公文書の不適正な取扱い
・公文書を偽造し若しくは変造し若しくは虚偽の公文書を作成し又は公文書を毀棄した場合:免職又は停職
・決裁文書を改ざんした場合:免職又は停職
・公文書を改ざんし紛失し又は誤って廃棄しその他不適正に取り扱ったことにより公務の運営に重大な支障を生じさせた場合:停職、減給又は戒告
⑭ セクシュアル・ハラスメント
・暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をして又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした場合:免職又は停職
・相手の意に反することを認識の上でわいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動を繰り返した場合:停職又は減給(執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患した場合:免職又は停職)
・相手の意に反することを認識の上でわいせつな言辞等の性的な言動を行った場合:減給又は戒告
⑮ パワー・ハラスメント
・相手に著しい精神的又は身体的な苦痛を与えた場合:停職、減給又は戒告
・指導、注意等を受けたにもかかわらず繰り返した場合:停職又は減給
・相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患させた場合:免職、停職又は減給
4.公金官物取扱い関係
① 横領・窃取・詐取:免職
② 紛失・盗難:戒告
③ 官物損壊:減給又は戒告
④ 失火:戒告
⑤ 諸給与の違法支払・不適正受給:減給又は戒告
⑥ 公金官物処理不適正:減給又は戒告
⑦ コンピュータの不適正使用:減給又は戒告
5.公務外非行関係
① 放火・殺人:免職
② 傷害:停職又は減給
③ 暴行・けんか:減給又は戒告
④ 器物損壊:減給又は戒告
⑤ 横領
・自己の占有する他人の物を横領した場合:免職又は停職
・遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した場合:減給又は戒告
⑥ 窃盗・強盗
・他人の財物を窃取した場合:免職又は停職
・暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した場合:免職
⑦ 詐欺・恐喝:免職又は停職
⑧ 賭博
・賭博をした場合:減給又は戒告 ・常習として賭博をした場合:停職
⑨ 麻薬等の所持等:免職
⑩ 酩酊による粗野な言動等:減給又は戒告
⑪ 淫行:免職又は停職
⑫ 痴漢行為・盗撮行為:停職又は減給
6.飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
① 飲酒運転
・酒酔い運転:免職又は停職(人を死亡させ又は人に傷害を負わせた場合:免職)
・酒気帯び運転:免職、停職又は減給(人を死亡させ又は人に傷害を負わせた場合:免職又は停職(特に事故後の救護を怠る等の措置義務違反をした場合:免職)
・飲酒運転をした職員に対し車両若しくは酒類を提供し若しくは飲酒をすすめた場合又は職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗した場合:免職、停職、減給又は戒告
② 飲酒運転以外での交通事故(人身事故を伴うもの)
・人を死亡させ又は重篤な傷害を負わせた場合:免職、停職又は減給(措置義務違反:免職又は停職)
・人に傷害を負わせた場合:減給又は戒告(措置義務違反:停職又は減給)
③ 飲酒運転以外の交通法規違反:停職、減給又は戒告(措置義務違反:停職又は減給)
7.監督責任関係
① 指導監督不適正 減給又は戒告
② 非行の隠ぺい、黙認:停職又は減給
8.責任はこれだけではない
上記に掲げたものは、あくまで「国家公務員法上の責任」に過ぎず、不祥事の態様に応じて、「刑事上の責任(逮捕・実刑判決など)」「行政上の責任(免許取消しなど)」「民事上の責任(損害賠償など)」も生じます。
また、実名報道、職場に居辛くなることによる辞職(得べかりし給与等の喪失)、特に国税職員の場合には税理士登録の制限といった制裁も考えられます。