1.形式審査とは
形式審査とは、審査請求が法令に定める手続に従って適法にされたか否かについての手続要件の審査のことをいい、それを通過して初めて実質審理に入ることができます。
国税不服審判所が審査請求書を受理した場合には、審査請求書の副本を原処分庁に送付するとともに、原処分庁から形式審査に必要な書類(原処分関係資料)の提出を求め、その審査請求事件の担当審判官及び分担者として指定又は指名されることが予定される者を形式審査担当者に指名し、その形式審査担当者により形式審査が行われます。
2.形式審査の範囲と方法
形式審査は、具体的には次のような事項について行われます。
① 審査請求の対象となる処分の存否
② 審査請求ができない処分でないかどうか
③ 不服申立適格及び請求の利益の存否
④ 適法な審査請求期間内かどうか
⑤ 再調査の請求の適法性
⑥ 不服申立先が適法であるかどうか
⑦ 裁決済みの処分についての審査請求でないかどうか
⑧ 審査請求中の処分について再度審査請求されたものかどうか
⑨ その他不適法事由の有無
形式審査は、原則として書面審査の方法によりますが、審査請求人及び原処分庁提出の資料では不十分な場合には、審査請求人又は原処分庁に対して調査を行うこともあり得ます。
3.補正の求めをすべき理由
国税不服審判所は、審査請求書の記載内容及び添付書類の審査の結果、必要な記載事項を欠いているなどの不備があるものの、その不備を補正することによって適法と認められる審査請求については、相当の期間を定めてその補正を求めなければなりません。
これは、補正に当たっては、形式に捉われることなくできる限り適法な審査請求として補正されるよう審査請求人の意とするところを読みとった弾力的な取扱いをすべきことが要求されており、安易に不適法のため却下処分をすることにより救済の途を閉ざすことは、納税者の権利救済機関としてすべきではないからです。
例えば、再調査決定の取消しを求める審査請求の場合、再調査決定そのものの取消しを求めることは国税通則法の規定によりできないこととなっているので、その審査請求の趣旨が明らかに再調査決定の取消しのみを求める趣旨のものでない限り、再調査決定を経た後の原処分についての取消しを求める審査請求とするように、審査請求人に十分説明した上で訂正を求めていることになります。
4.補正の手段
補正の手続は、補正の確実性を期するために書面による補正が望ましいですが、審査請求人又は代理人が口頭による補正を申し出たときは、補正の内容を録取書に記録することにより、審査請求人等の意思の確実な伝達と証拠保全を図っています。
また、審査請求書の記載内容の欠陥又は不備が軽微なものについては、審査請求書の記載内容及び添付書類又は原処分関係書類等によって、審査請求書の必要的記載事項が判明するときは、審査請求人等の意思を確認しないで職権により補正し、他方、当該書類等では当該事項が判明しないときは、電話や書面により審査請求人等の意思を確認した上で職権による補正を行っています。
そして、補正されることにより不備が訂正されたときは、初めから適法な審査請求がされたものとして取り扱われます。
5.不適法な審査請求に対する審理手続を経ないでする却下裁決
形式審査を終了した後、適法と認められる審査請求及び不適法であることが明らかでない審査請求は、答弁書の提出を原処分庁に求めるとともに、担当審判官等を指名し、これらの者で構成する合議体に配付され、実質審理に入ることになります。
一方、審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかな審査請求又は補正を求めても定められた期間内に補正されなかった審査請求は、国税通則法第92条の規定に基づき、審理手続を経ないで不適法な審査請求として却下の裁決がなされます。
この場合の却下は、裁決の一態様ではあるものの、他の裁決と異なり実質審理の対象として取り上げない旨の判断であるため、審理手続を経ないで行うことから、国税不服審判所長は合議体の議決に基づくことなく裁決を行います。
一方、形式審査の段階では不適法であることが明らかでなく、実質審理に着手した後に不適法な審査請求であることが判明したときは、国税通則法第98条の規定に基づき、合議体の議決に基づき却下の裁決がされます。
ちなみに、不適法であることが明らかな審査請求としては、例えば次のようなものがあります。
① 審査請求の対象となった処分が審査請求をすることのできないものである場合
② 審査請求の対象となった処分が存在しない場合又は裁決がされるまでにその処分が取り消されるなどして消滅した場合
③ 審査請求の対象となった処分が審査請求人の権利又は法律上の利益を侵害するものでない場合
④ 審査請求の対象となった処分について、既に国税不服審判所長の裁決がされている場合
⑤ 審査請求が法定の審査請求期間経過後にされており、かつ、審査請求期間を経過したことについて正当な理由が認められない場合
⑥ 審査請求中の処分について再度審査請求された場合
6.審査請求期間を経過したことについて正当な理由
⑤の法定の審査請求期間の経過については、不服申立期間の計算は、争訟手続上の要件であることから厳格に解釈されており、正当な理由がなければ、宥恕されることはありません。
ここでいう「正当な理由」には、例えば、
① 誤って法定の期間より長い期間を不服申立期間として教示した場合において、その教示された期間内に不服申立てがされた場合
② 地震、台風、洪水、噴火などの天災に起因する場合
③ 火災、交通の途絶等の人為的障害に起因する場合
など、不服申立人の責めに帰すべからざる事由が一般的に該当するとされています。