【0144】民間出身国税審判官の或る日の日記(その29)

1.平成27年4月23日

自分が担当する事件について、総括審判官が本所の審判部に在籍していた頃は、弁護士が事件の代理人である事件が多く代理人弁護士から隙を突かれないため、期限までに答弁書が来なければ原処分庁に対して即督促を出していたようであるが、答弁書到着前は(当時は)担当審判官指定前なので担当審判官名で文書が発せられなくなり、今度は審判所も決裁ラインが五月雨的にGWで休むため所長決裁が得られず、督促が出せないことになり、歯がゆいことになる。
総括審判官と協議した結果、審査事務の手引きの様式(帳簿書類等の提出の催促について)を参考に原処分庁に対して督促を出すことにした。
しかし、審査官は「自分も同じ系統の人間なので原処分庁に対してこんなことはしたくないが」と言っていた。

2.平成27年4月24日

前日出張で不在だった副審判官に「答弁書が来たか?」と聞かれ、「GWでいつになるかもわからないので催促文書を出した」といったら、「出したって出てこないでしょう」と言われたが、それは百も承知である。
「審判所がその申出を認めているわけではない」ことを表現するために出しているのだが、副審判官としては「催促はやり過ぎでは?」ということを言いたかったのかもしれない。

3.原処分庁内部の主張書面の起案の流れ

審査請求書が提出されると、原処分庁宛に答弁書の提出を求めます。
現在は取扱いが異なりますが、当時の審判所の運用としては、事前に異議申立て(現在は「再調査の請求」といいます)を経ていない事案であれば、原処分庁による再検証がなされていないことから、3週間程度の猶予を与え、異議申立てを経ている場合には、「異議決定書」を書けるだけの再検証をしているはずなので、2週間程度の猶予を与えて答弁書を提出させることになっていました。
その事案については、4月10日(金)に原処分庁に答弁書要求をして、異議申立てを経た事案であったため、4月24日(金)を期限としました。
すると、原処分庁の不服申立て担当者から、「期限を5月15日(金)まで『3週間』延長してほしい」という依頼がありました。
答弁書に限りませんが、審判所から原処分庁に主張書面の提出依頼をすると、原処分庁は、まず、署の不服申立て担当上席調査官が素案を起案し、局の審理課(不服申立て担当)にレビューを依頼しますが、不服申立て担当上席が主張書面を書き慣れているとは限らず、その場合は審理課の主査とその補佐である実査官が手取り足取り教えるか、審理課で全面書き換えをすることになります。
そして、審理課から原案を署に返戻し、担当副署長・署長にレクチャーして署長決裁を得たものが、やっと審判所に送られてきます。
原処分庁は、当然ながら組織として動いており、具体的にはこれだけの人数を経ることになりますので、GW前後にこの決裁ラインの誰かが休暇を入れていれば、答弁書の作成工程はストップします
特に、署長は、年次(有休)休暇を取得して、ぶち抜きでGW中休暇を取得していることが多く、本件の決裁ラインの休暇予定を睨み、2週間の期限に対して3週間の延長を打診してきたのでした。

4.原処分庁に対する答弁書の催促

私の隣の審査官は「まぁ、この時期はみんな順番で休んで行くものですからしょうがないんじゃないでしょうか。」と言ってきますし、いくら民間出身だからといって、硬直的に「期限までに答弁書の提出がなければ、原処分庁による答弁はなかったものとして審理する(事実上、課税処分を取消しする)!」と言い放つと、おそらく審判所内で大問題になるので、結果的には、その要請を受け入れざるを得ませんでした。
しかし、ただ受け入れただけでは、今度は、審査請求人に対して面目が立ちません。
なぜならば、「原処分庁には3週間も期限延長を認めて、なぜ、こちらには(その後の反論書の)期限延長を認めないのか。審判所は中立公正に審理すべきであるのに、原処分庁だけ優遇するとは、やはり『同じ穴のムジナ』ではないか」との誹りを受ける可能性があるからです。
そこで私が採った方法は、事実上3週間の延長を認めつつ、原処分庁に対して「答弁書の催促について」という督促文書を担当審判官名で発することでした。
本来は、証拠の提出が遅延した場合に発する「帳簿書類等の提出の催促について」という審判所様式を加工したのです。
その様式の末尾には、「なお、提出がない場合には、その書類がなかったものとして審理します。」という1文があるのですが、さすがにそれは削除しました。
これでさえ、審査官からは、「自分が将来戻る課税庁にケンカを売っているようなものであるため、そんな文書を発してほしくない」と言われたのですが、押し切って原処分庁に発することにしました。
担当審判官の発遣文書は、原処分庁(税務署長)に視閲されるので、担当審判官からの「そんな期限延長を簡単に許しているのではない!」というメッセージを伝えたかったのです。
審判所は、判断機関ではあるものの税務行政部内であるという立ち位置の微妙さを感じた出来事でした。

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